折れたのか、一同にはわけが分らなかった。何にもしないのに、折れるというのはおかしいのだ。しかし棒はたしかに、真二つに折れた。
 帆村は跼《かが》んだまま、後に振り返った。
「見えましたね。この太い棒が、鋭い刃物で斬られると同じように、切断されたのです。棒の切口の高さを目測《もくそく》してください。もしも僕が、こうして跼まないで、直立したまま真直こっちへ歩いて来たとしたら、この棒の代りに、僕の細首《ほそくび》が、見事に切断されてしまった筈です。どうです、お分りですかな」
 委員たちは、首を左右に振った。帆村の首が切断されたらということは分るが、なぜ、そうなるのか分らなかった。
「棒を切ったのは、鋭い刃物です。その刃物は、皆さんの目には見えないと思うでしょう。ところが、ちゃんと見えているのですよ。この水牛仏が手にしている大きな青竜刀《せいりゅうとう》――これが、今この棒を叩き斬ったのです」
「おい君。そんな出鱈目《でたらめ》をいっても、誰も信用しないよ」
 長老陳程が、憎《にく》まれ口《ぐち》をきいた。
「出鱈目だというのか。じゃ、君は、立ったまま、ここまで来られるか」
「行けないで、どうするものか」
「えっ、ほんとうか。危い、よせ!」
 帆村が叫んだときは、もう遅かった。
 長老は、つかつかと帆村の方へ駈けだした。
「ああッ」
 次の瞬間、長老陳程の首は、胴を放れていた。そして鈍い音をたてて、床の上に転った。
「あ、危い。誰も近よってはいけない。われわれの目には見えないが、この水牛仏は、青竜刀を手にもったまま、独楽《こま》のように廻転しているのだ。生命が惜しければ、誰も近よってはいけない」
 帆村は、そういうと、跼んで、一同のところへ引返してきた。
 一同は、急に不安に襲われ、帆村より先に、前室へ逃げだそうとしたが、そこを動けば、また自分の首が飛ぶのじゃないかという恐れから、どうしていいか分らず、結局その場にへたへたと坐りこんでしまった。


   ふしぎな残像《ざんぞう》


「風間さん。あれは、人間の眼が、いかに残像《ざんぞう》にごま化されているかという証明になるのですよ」
 事件のあとで、帆村は風間三千子の質問に応《こた》えて、重い口を開いた。
「残像にごま化されているといいますと……」
「つまり、こうですよ。今、目の前に、回転椅子を持ってきます。僕がこれを、一
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