こい」
 田毎大尉は、ついにそういった。
「大尉どの。自分もここに居てよろしくありますか」
「ああ、よろしい。ぜひそこにいて、『火の玉』少尉を慰《なぐさ》めてやってくれ」
 間もなく、当番兵につれられて、部屋へ入ってきた壮漢、見れば警防団服に身を固めていて、ちゃんと右手もついている。


   新しい警防団員


「おう、そのいでたちは……」
 と、田毎《たごと》大尉がいぶかるのを、壮漢はうやうやしく右手で挙手の敬礼をして、
「はあ、きょうは大尉どのに、この姿を見ていささか意を安んじて頂こうと思って参りました」
「おお、これは戸川――戸川中尉どの。ずいぶん久しぶりでありましたな」
 そういう壮漢は、やっぱり「火の玉」六条少尉以外の何人でもなかった。どうしたわけか、きょうは「火の玉」少尉、いつになく朗《ほがら》かであった。
「おお、貴様に会って、俺は嬉しいぞ」
 と、戸川中尉は立ちあがって、六条少尉の方に手をさしのばした。そのとき中尉は、硬いひやりとしたものを掌《てのひら》の中に感じた。見るとそれは鋼鉄《こうてつ》と硬質ゴムとでできた「火の玉」少尉の義手《ぎしゅ》だったのである。
「戸川
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