そんなにまで一心になって、迫りくる毒瓦斯から脱れようと人々は藻掻《もが》いたが、一尺逃げると二尺押返えされ、一人を斃《たお》すと、二人が押して来、そのうちに、咽喉のあたりが、チカチカ痛くなった。
「瓦斯だッ」
と気のついたときには、既に遅かった。魚の腸《はらわた》が腐ったような異臭が、身の周《まわ》りに漂《ただよ》っているのだった。胸の中は、灼鉄《やきがね》を突込まれたように痛み、それで咳《せき》が無暗《むやみ》に出て、一層苦しかった。胸から咽喉のあたりを締めつけられるような気がした。金魚のように、大きく口をパクパクやったが、呼吸はますます苦しくなった。頭がキリキリと痛くなり、眩暈《めまい》がしてきた。前の人間の肩をつかもうとするが、もう駄目だった。地球が一と揺れゆれると、堅い大地が、イヤというほど腰骨にぶつかった。全身が、木の箱か、なんかになってしまったような感じだった。
「うー、痛ッ」
誰かが、太股を踏みつけた。
「うーむ」
腹の上を、靴で歩いている奴がいる。
「うわーッ」
胸の上で躍っているぞ。肋骨が折れる、折れる。
「ぎゃーッ」
頭を足蹴《あしげ》にされた。腹にも
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