う。そこで爆弾をボンボンおっことすから、大変なことに、なっちゃう。だから空襲のときには、電灯をすっかり消して、山だか海だか、判らないようにして置くことが大切でしょう」
「そんなことァ知ってるよ」長造は、顔を膨《ふく》らましてみせた。
「皆で、電灯のスイッチをパチンとひねれば、いいじゃないか」
「だけど、スイッチを誰がひねるか判っていないのですよ。電柱についている電灯だとか、お蕎麦《そば》やさんの看板灯《かんばんび》なんかは、よく忘れるんですよ。ですから、警戒管制になると空から見える灯火《ともしび》は、いつでも命令あり次第に、手早く消せるように用意をして置くんです。あっても、なくてもいいような電灯は、前から消して置く。これが警戒管制です。僕、受持は、水の公園と、あの並び一町ほどの民家《みんか》なんです」
「民家!」長造はニヤニヤ笑い出した。「生意気な言葉を知ってるネ。じゃ、行っといで。遊びじゃないんだから、乱暴したり、無理をしちゃ、駄目だよ」
「うん、大丈夫!」
少年は、ニッと笑うと、そのまま脱兎《だっと》の如く駈け出して行った。
長造が店頭《てんとう》を入ると、そこにはお妻《つま》が、伸びあがって、往来を眺めていた。
「おや、おかえりなさい」
「うん」
「外は大変らしいのね」
「そうよ、お前」長造は、ふりかえって店の前を眺めたが、警戒場所に急ぐらしい若人《わこうど》の姿を、幾人も認めた。
「なんしろ、警戒管制になったんだもの」
「警戒管制では、まだ電灯を消さなくていいのでしょうか」
お妻が訊《き》いた。
「そりゃ、ソノお前、警戒管制という奴は、だッ……」
そこへバラバラと少年が駈けこんできた。
「警戒管制ですから、不用の電灯は消して置いて下さい。この門灯は直ぐ消えるようになっていますかッ」
「ええ、直ぐ消えるように、なってますよ。おや、波二《なみじ》さんじゃないの」
「ああ、下田《しもだ》のおばさんの家だったネ」波二と呼ばれた少年は、鳥渡《ちょっと》顔を赤くした。「こっちから見ると、電灯の影で判らなかった」
「あら、そう。御苦労さまだわネ。うちの素六もさっきに出掛けましたよ」
「僕も一生懸命、やっているんですよ、おばさん。この前の演習のときと違って、しっかりした大人は大抵《たいてい》出征《しゅっせい》しているんで手が足りないの」
「貴方の家の兄《あん》ちゃん
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