は、まるでおもちゃの軍艦の形に見えた。
「おい、あのなに[#「なに」に傍点]は……」と長造はお妻を呼び止めた。
「弦三《げんぞう》はもう帰っているかい」
「弦三は、アノまだですが、今朝よく云っときましたから、もう直ぐ帰ってくるに違いありませんよ」
「あいつ近頃、ちと帰りが遅すぎるぜ、お妻。もうそろそろ危い年頃だ」
「いえ、会社の仕事が忙しいって、云ってましたよ」
「会社の仕事が? なーに、どうだか判ったもんじゃないよ、この不景気にゴム工場《こうば》だって同じ『ふ』の字さ。素六《そろく》なんざ、お前が散々《さんざん》甘やかせていなさるようだが、今の中学生時代からしっかりしつけをして置かねえと、あとで後悔《こうかい》するよ」
「まア、今日はお小言《こごと》デーなのね、おじいさん。ちと外《ほか》のことでも言いなすったらどう? 貴郎《あなた》の五十回目のお誕生日じゃありませんか」
「五十回目じゃないよ、四十九回目だよ」
「五十回目ですよ。おじいさん、五十になるとお年齢《とし》忘れですか、ホホホホ」
「てめえの頭脳《あたま》の悪いのを棚《たな》にあげて笑ってやがる。いいかいおぎゃあと、生れた日にはお誕生祝はしないじゃないか、だから、五十から引く一で、四十九回さ」
「なるほど、そう云えば……」
「そう云わなくても四十九回、始終《しじゅう》苦界《くがい》さ。そこでこの機会に於て、遺言《ゆいごん》代りに、子沢山の子供の上を案じてやってるんだあナ」
「まあ、およしなさいよ、遺言なんて、縁起《えんぎ》でもない、鶴亀鶴亀《つるかめつるかめ》」
「お前は実によく産んだね、オイばあさん。ちょいと六人だ。六人と云やあ半打《はんダース》だ。これがモルモットだって六匹函の中へ入れてみろ、騒ぎだぜ」
「やあ、お父さん、お帰りなさい」長男の黄一郎《きいちろう》が入ってきた。
「モルモットをどうするとかてえのは、一体なんです」
 長造とお妻とが顔を見合わせて、ぷッと吹きだした。
「お父さんは、お前たちのことをモルモットだって云ってなさるよ。よくお前は六匹も生んだねえ、なんて」お妻はおどけて嗾《け》しかけるように云った。
「私達がモルモットなら、お父さんは親モルモットになりますね、ミツ坊は孫モルモットで……」
「そうそう、ミツ坊に、この靴下を持ってってやらなきゃあ。おじいさんは、靴下を早く持って行けと云っ
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