げるもののようであった。そういえば、湯河原中佐が、秘かに、司令官の室内に忍びこみ、鍵らしいものを盗んで、地下街の一隅に設けられた秘密の鉄扉《てっぴ》を開き、その中に姿を一時隠したことがあった。彼は、誰にも話の出来ない或る重大任務を、遂行して、国家の危機を、間一髪に、救ったのだった。その内容については、司令官と中佐と、外に数名の当事者以外には、誰も知らないことで、筆者《わたくし》も、それ以上、書くことを許されないのである。
 兎《と》に角《かく》、それは、三千年の昔より、神国《しんこく》日本に、しばしば現れたる天佑《てんゆう》の一つであった。
「帆村君は、もう一つ、大きな秘密を、探《さ》ぐり出したのです」中佐は、夢から醒《さ》めたように、語をついだ。
 司令官は、静かに、喘《あえ》いだ。
「それは、G《ゲー》・P《ペー》・U《ウー》が、次に計画しつつあるところの陰謀であったのです。だが、鬼川自身も、こっちの方については、あまり詳しいことを知っていなかったのです。唯《ただ》、戸波博士の研究所が覗《ねら》われていること、研究所襲撃の手段として、坑道を掘り、地下から、爆破しようという計画のあるのを、知ることが出来たのです。帆村君は、思う仔細《しさい》があって、今朝、紅子と手を取って、勇敢にも、大混乱の市内へ、飛び出して行ったのです。正午近くになって、わたくし達の、偵察機が、神田上空を通るとき、運よく、帆村君の、反射鏡信号を、発見したというわけです」
 中佐は、語り終って、額《ひたい》の汗を、拭った。
「帆村君」司令官は、厳粛《げんしゅく》な態度のうちに、感激を見せて、名探偵の名を呼んだ。「いろいろと、御苦労じゃった。なお、これからも、お骨折りを、願いまするぞ」
「はいッ。愛する日本のためであれば、ウーンと、頑張《がんば》りますよ」
 日頃冷静な帆村探偵も、このときばかりは、両頬を、少女のように、紅潮させていた。
「それでは、戸波博士のことは、よくお願いいたしますよ」
「わかりました」司令官は、大きく肯《うなず》いた。「草津参謀。君は、麻布《あざぶ》第三聯隊の一個小隊を指導して、直ちに、お茶の水へ出発せい」
「はいッ。草津大尉は、直《ただ》ちに、お茶の水の濠端《ほりばた》より、不逞団の坑道を襲撃いたします。終り」
「うむ、冷静に、やれよ」
 草津大尉は、側《かたわ》らの架台《
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