《まぐろぶね》が四|艘《そう》、故郷の港を出て海上五百キロの沖に、夜明を待っていた。
その鮪船は、いずれも無線の送受信機とアンテナとを備えていて、魚がとれると、遠く内地海岸の無線局を呼び、市場と取引の打合せをすることができるのであった。
磯吉《いそきち》という漁夫の一人が、用便のために眼をさました。東の空は、もうかなり白みがかっていた。舳《へさき》に立つと、互に離れないように、艫《とも》と艫とを太い縄で結びあわせた僚船の姿が、まだ寝足りなそうに浮かんでいるのが見えた。この天気では、今日もどうやら不漁《しけ》のような気がする……と思いながら、彼は明けゆく海原を前にして、ジャアジャアと用をたしはじめた。
そのときであった。
「はてな、変な音がする……」
彼はふと遠い空から、異様な響《ひびき》の聞えてくるのをきいたのだ。
「ああ、そうか。……こいつはまた海軍の演習にぶつかったかな」
海にくらしている彼等にとって、何よりも嬉しいことは、思いがけぬ海上で、わが艦隊の雄姿を見ることだった。これも、演習で、海軍機が飛んでいるんだろう。……
「だが、海軍機にしちゃ、すこし音が変だな。非常に音
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