くなりますよ。……全く帝都にいるのは危険だ」
「ほう……」
 と分団長は驚きの色をあらわし、
「そんなことが始まるかもしれないと思っていたが……」


   敵機いよいよ迫る


「貴様は……」
 鍛冶屋の大将は憤然として、清さんの胸ぐらをとった。
「キ、貴様は逃げる気か。逃げたいのか。空襲をうけようとする帝都を捨てて逃げるのか!」
「あッ、苦しいッ、ハハ放せッ。……俺は逃げないが、弱い家族は逃がしたい……」
「ば、ばかッ!」
 鍛冶屋の大将は、清さんを突きとばした。彼はヨロヨロとなり椅子《いす》につきあたると、ドーンとひっくりかえった。
「こーれ、よく聞け」
 鉄造は一歩前に出て悲痛な声をはりあげ、
「貴様はそれでも、天皇陛下の赤子《せきし》かッ! 大和民族かッ、五反田防護団員なのかッ! 恥を知れッ」
 まァまァと分団長が中に入ったが、鉄造はそれをふり払いまた一歩前進した。
「忠勇なる帝都市民は、たとえ世界一の空軍の空襲をうけて、爆弾の雨をうけようが、焼夷弾の火の海に責められようが、帝都を捨てて逃げだそうなどとは思っていないぞ。こんどの国難においては、われわれ市民も立派な戦闘員なんだ
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