きだそうと、その火の子の落ちたところが濡れていれば、あたりに燃えひろがる心配はなかったのだ。
焼夷弾の防ぎ方をハッキリ心得ている人が少かったばかりに、焼夷弾を全町にくらった直江津の町には、敵機の注文どおりに一時にドッと火の手があがった。
行方をくらました一機が直江津の上空にしのびこんだので、スパイは三箇所に火事を起して、直江津の町がここだと敵機に知らせたわけだった。だから焼夷弾は、町の上にちゃんと正しく落ちた。
「姉さん、逃げましょう――」
旗男は火が迫ったのを見て、姉をうながした。このとき姉はゴソゴソ押入を探していた。
「ちょっと、旗男さん。……逃げるにしても防毒面がなければね。もう一つあったはずだが……ああ、あった。旗男さん。早くこれをかぶんなさい」
さすがに軍人の家庭は用意がよかった。
旗男は、非常な感激とともに、その防毒面を情ぶかい姉の手からうけとった。
「……旗男さん。あんた、この町にぐずぐずしていちゃいけないわ。きっと東京は、もっとひどい空襲をうけていてよ。家はお父さまもお母さまも御病気なんでしょ。竹ちゃんや晴ちゃんでは小さくて、こんなときには頼みにはならないわ。
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