みや》カニ出発シ、第一中隊ハ鴨島《かもじま》ニ、第二中隊ハ柳島《やなぎしま》ニ、第三中隊ハ板倉橋《いたくらばし》附近ニ、陣地ヲ占領スベシ。終」
 いよいよ出動命令が発せられたのである。川村中尉は、固い決心を太い眉《まゆ》にあらわして、おごそかに挙手の敬礼をした。そして廻れ右をすると、活発な足どりで連隊長の室を出ていった。
「高射砲第三中隊あつまれ!」
 中尉の号令を待ちかねていたかのように、部隊はサッと小暗《おぐら》い営庭に整列した。点呼もすんだ。すべてよろしい。そこで直ちに部隊は隊伍《たいご》をととのえて、しゅくしゅくと行進をはじめた。
 市街を南へぬけて左へ曲ると、そこは板倉橋だった。――中隊は橋を中心として左右に散って陣地をつくった。――聴音機の大ラッパは暗黒の空に向けられ、ユラリユラリと重そうな頭をふった。敵機の来る方向はいずこだろう?
 不気味な夜は、音もなく更《ふ》けていった。
 午後九時になると、とうとう非常管制が布《し》かれた。サイレンの唸《うなり》、ラジオの拡声器から流れてくるアナウンサーの声。「空襲、空襲!」と叫びながら走ってゆく防護団の少年。「灯火《あかり》をかく
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