てゆくと、間もなくラジオの演芸放送がプツンと切れ、それに代って騒然たる雑音が入って来た。なんだかキンキン反響しているらしい。かすかではあるが、電話にかかっているらしい話声がする。どうやらそれは軍人らしい。活発な声だ、とたんに爆発するようなアナウンサーの声。……
「ただいま、重大なる事態が起りましたため、マイクロフォンを東部防衛司令部に移して皆様に呼びかけます……」
 重大なる事態発生? 旗男は思わず受信機のダイヤルを音の強い方にひねった。そして隣の部屋を向いて、大声で姉を呼んだ。
「姉さん。たいへんですよ。早くここへ来て、放送をお聞きなさい」
「あら、いよいよ始まったの……」
 姉は正坊をソッと寝かしつけて、立ってきた。
 拡声器からは、声なじみの中内《なかうち》アナウンサーの声が一句一句強くハッキリと流れてくる……。
「まず第一に、香取《かとり》防衛司令官の告諭《こくゆ》であります。司令官閣下を御紹介いたします」
 しばらく間があって、やがて軍人らしい荘重な声がひびいてきた。――
「本日午後八時、全国に防空令がくだされました。その目的は、S国の強力なる空軍が、わが帝国領土内に侵入を開
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