軍は大きくうなずいた。
「しかるに、S国はその痛手には一向参る様子もなく、チ市にあらかじめ待機させてあった超重爆撃機七十機を、○○○○の北方ス市に移しました。この目的はもちろん、わが国土内に深く入りこんで空襲をやるためでありますが、その飛行場出発はいつになりますやら不明と報道されています。とにかく、これが最も恐るべき相手であります」
香取将軍は、また大きくうなずいた。そして口を開いた。
「又、U国の有名な空軍も、いま○○○○半島に集っているそうじゃな。S国とU国との世界の二大空軍が握手しそうな様子に、大分心配しているむきもあるが本官は、それほど憂慮はしていない。たとえ、全世界の空軍が一つになっても、戦争となると、おのずから順序がある」
と、将軍の太い眉がピクリと動いた。
「さっき、C国の局外中立宣言(どちらにもつかぬということ)が一両日のびるという情報が入りました。やはり昨夜の空襲が原因しているものと見えます」
と、高級副官がいった。
「C国の態度はなかなか決まらんだろう。決まらんところがあの国の国がらなのだ。日本が強ければ、日本につこうとするし、日本が弱りかけたとみると、日本を離れようとする。東洋の平和のためには、わが帝国がどうしても強くなければいけないのじゃ」
「閣下のお言葉の通りです、C国はずいぶん優秀な軍用機をもっているのに、はっきりした行動をとれない。S国やU国が飛行根拠地を貸せといって迫っても、断るだけの力がないのです。あわれな厄介な国ですね」
「わが陸軍の主力がほとんど○○とC国とにでかけているのも、一つはこの弱い国を正しく導いてやって、東洋の平和に手落なからしめるためだ。平和を乱す国などに、むやみに飛行根拠地などを借りられるようなときには、わが国は、代って物もいってやらねばならぬ。東洋に於《お》ける帝国の使命は実に重いのだ」
そのとき、若い大将参謀が、書類をもって入ってきた。
「司令官閣下、昨夜の空襲によってわが国土のうけましたる被害について御報告いたします」
「ほう、御苦労」
「○○海を越えてきました敵の超重爆四機が、攻撃いたしましたのは、大体に於て、本州中部地方の北半分の主要都市でございました。焼夷弾が十トン毒瓦斯弾が四トン、破甲地雷弾が三トンぐらい、他に照明弾、細菌弾などが若干ございますものと推測いたします」
「十七トンの爆弾投下か。―
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