すぐに新しい七十ミリの砲弾がつめかえられ、砲手はすばやく引金を引いた。砲弾は、ポンポンと矢つぎばやに高空で炸裂する。しかし敵機は憎らしいほど落ちついている。――そればかりか、機体の腹のところについていた縞《しま》が崩れて、なにか白いものがスーッと落ちてきた。
「あッ、やったぞ、爆弾投下だッ……」
誰かが大声で叫んだ。
白い爆弾の群は、斜に大きな曲線をえがいて落ちてくる。……一秒、二秒、三秒……。
ヒューッ、ウウーンという不気味な唸音《うなりおと》をきいたかと思ったその瞬間、
グワ、グワ、グワーン。
ドドドドーン。
ガン、ガン、ガン、ガン。
目がくらむような大閃光《だいせんこう》とともに、大地が海のようにゆらいだ。ものすごい大爆発! まぢかもまぢか、聴音機の大ラッパがたちまちもげて火柱の間を縫《ぬ》うように吹きとんでゆく。それをチラリと見たが……。
「ウウーン。ば、万歳!」
悲痛なさけびごえ。
それにしても、ものすごい狙《ねらい》だ。わが部隊をぶっつぶそうとてか、破甲弾をなげおとしたのだった。
「……照準第一、あわてるなッ」
どこからか、川村中隊長のさけぶ声が響いてきた。
「中隊長どの、平気の平左であります……」
タダダダーン。シューッ。ダダダダーン。
勇猛なる兵は、手足をもがれても、部署から離れぬ。砲弾は、照空灯の光の柱をおいつづける。もう一弾!
それ、もう一弾!
ピカピカピカと、空中に奇妙な閃光が起ると見る間に、ぶるンぶるンと異様な空気の震動――とたんにパッと咲いた真赤な炎! あッという間もなくメラメラと燃えひろがり、クルクルクルとまわりだした。
「うん、命中だ。敵機は墜落するぞう!」
「バ、バンザーイ」
敵機は、すっかり炎につつまれて、舞いおちる。……
「……さあ、残るはもう一機だッ。もう一がんばりだ。はやく探しあてるんだ」
伸びくる毒の爪
それまで直江津の町は、幸いにも、夜襲機の爆撃からまぬかれていた。
旗男は、不安な面持で、高田市方面と思われる方角の空と地上との闘いをみつめていた。空中に乱舞する照空灯、その間に交って破裂する投下爆弾、メラメラと燃えあがる火の手、遠くからながめても恐ろしい焼夷弾の力!
「あれが、この町の上に降ってきたんだったら、今ごろは冷たい屍《しかばね》になっているかもしれない……」
町いっ
前へ
次へ
全50ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング