して下さァい!」と消し忘れた家の戸を叩《たた》くけたたましい音。……そんなものがゴッチャになって、町や村は必死の非常管制ぶりだ。
 午後九時半、○○海に出動していた第四艦隊から報告が来た。
「艦隊ハ午後九時二十分北緯四十度東経百三十七度ノ洋上ニ於《おい》テ、高度約二千|米《メートル》ヲ保チ、南東ニ飛行中ノ敵超重爆撃機四機ヲ発見セリ、直チニ艦上機ヲ以《もっ》テ急追攻撃セシメタルモ、天暗ク敵影ヲ逸《いっ》スルオソレアリ」
 これで敵機の強さがわかった。やはりS国が世界に誇る超重爆撃機をもって攻めてきたのだ。それは、一台にすくなくとも五トンの爆弾を積んでいるはずだ。爆弾にもいろいろあるが一トンの破甲弾《はこうだん》なら、十階の鉄筋コンクリートのビルディングも、屋上から一階まで抜けてメチャメチャになる。しかし敵機の持ってくるのは大部分が焼夷弾《しょういだん》であろう。これには一キロ以下のや二十キロ位のやいろいろある。落ちて来るとたちまち三千度の熱を出し、鉄でもなんでもトロトロに焼き熔《と》かしてしまうのだ。この焼夷弾をドンドン落して、日本の燃えやすい市街を焼きはらってやろうというのが、敵の作戦なのだ。
 また、なかには恐ろしい毒瓦斯弾《どくガスだん》も交っているかも知れない。その毒瓦斯にもいろいろある。
 それをまかれると、やたらにクシャミがでて、しまいには頭痛|嘔吐《おうと》になやむジフェニール、クロールアルシンなど、また涙がポロポロ出てきて、眼があけられず、胸が痛みだすというピクリン瓦斯。また嗅《か》げば肺臓がはれだし、息がとまって死ぬようなことになるホスゲン瓦斯、もっとひどいのはイペリット瓦斯で、身体に触れるとひどくただれ、大きな水ぶくれができ、だんだん目や肺や胃腸をわるくしてゆくという恐ろしいものだ。その外にもまだ秘密にしている新毒瓦斯があるというから、それも持ってきて撒くにちがいない。――ああ、地獄の世界は、見まいとしても、もう一時間か二時間のうちに、見られるのではないか。われらの準備はできているかしら。……
 突如、高射砲陣地に、連隊からの警報電話が入ってきた。
「第四艦隊発警報。――敵ノ超重爆撃機二機ヲ、遂《つい》ニ南方ニ見失エリ。他ノ一機ハ高角砲ニヨリ粉砕《ふんさい》シ、他ノ一機ハ海中ニ墜落セシメタリ。本艦隊モ駆逐艦一隻損傷ヲ受ケタリ」
「超重爆撃機二機ヲ南
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