じゃその配給品を是非売って下さい。このとおり両手を合わせて頼みます。僕はいいのだ。しかし妻が可哀そうだ。肺が元々悪いのですから、同情してやって下さい。ここに三千円ある。これで売って下さい。君、助けて下さい」
在郷軍人はそれには目も呉れず、さっきの婆さんと同じように、避難所の位置を教えてやった。
ぐわーン、ぐわーン。
「おう、始まったぞ」
群衆は一せいに立ち止って、爆弾の落ちたらしい方角に、耳を澄ませた。
「丸の内方面らしい」
弾かれたように群衆はどっと雪崩《なだれ》をうって、爆弾の落ちたとは反対の方に走りだした。その時だった。
どどど、どどーン、ぐわーン、うーン。
ばーン、ばばばーン。
釣瓶《つるべ》うちに、百|雷《らい》の崩れおちるような物凄い大音響がした。パッと丸の内方面が明るくなったと思うと、毒々しい火焔がメラメラと立ちのぼり始めた。米国空軍の爆撃隊が、その得意とする爆弾の連続投下を決行したのだ。
がーン、がーン。
それにつづいて、爆裂しそこなったような、やや調子はずれの爆音が、向うの街角にした。なんだか、ばかに白い煙のようなものがモヤモヤと立ち昇ったようであっ
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