も、爆音ともハッキリわからない音響が、だんだん激しく鳴りだす。照空灯は、クルリと右へ旋廻すると、また急に左へパッと動いた。そして心臓の鼓動のように忙しく点いたり消えたりした。
阻塞《そさい》気球が、敵機をひっかけようとヌーッと浮んでいるのが、チラリと見えた。
毒瓦斯と闘う市民の群
――昭和×年十一月、帝都の新興街、新宿附近にて――
「純ちゃん。まだ云って来ないネ」
少年団の天幕《テント》の中に、消灯用の竿竹を握っている少年が云った。
「もう来る時分なんだが……」と相手の少年は云った。
「でも来ない方がいいよ、そうじゃないか太郎ちゃん」
「警戒管制が出てから、もう一日以上経ったね」
「うん。警戒管制が出て、不用な電灯を消して歩いたのは昨夜《ゆうべ》の九時だったからネ」
「さっき、空襲警報がいよいよ本当に来たときは、米国空軍なんか何だいと思ったよ」
「あいつらは太平洋方面から航空母艦でやって来るわけだから、千葉県を通って来るんだネ」
「そうサ。今頃は、小笠原の辺で砲火を交えている日米の主力艦隊の運命が決っている頃だろうが、きっと陸奥《むつ》や長門《ながと》は、ウエスト
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