はずいぶんの高度をとって飛んでいるものらしい。
 するとまた直ぐに、別の伝令が靴音も高く飛んできた。
「隊長どの、警報電話であります」
「うむ」
「大宮聴音隊発警報、本隊は午前三時二十分において、北より西に向いて水平角六十九度、仰角八十度の方向に、敵機と認めらるる爆音を聴取せり。終り」
「うむ、御苦労」
 計算器を合わせていたM曹長は、顔をあげて叫んだ。
「隊長どの、唯今の報告に基き計算致しますと、敵機の進行方向は東南東であります」
 その声の終るか終らぬうちに、浦和の聴音隊からの警報がやって来た。M曹長は図盤の上にひろげた地図に、刻々の報告から割りだした、敵機の進路を赤鉛筆でしるしていった。
「高射砲兵員、配置につけッ」
 K隊長は緊張に赭らんだ頬に、頤紐をかけた。
[#「飛行機の上昇限度と高射砲の偉力」の図(fig3517_02.png)入る]
 兵員は、急速に高射砲列の側に整列した。命令一下、高射砲は一斉にグルリと旋回して砲口を真北にむきかえた。
 真近い道灌山《どうかんやま》の聴音隊からも、ただいま敵機の爆音が入ったとしらせてきた。敵機は折からの闇夜を利用しいつの間にか防空監視哨の警戒線を突破し、秩父《ちちぶ》山脈を越えて侵入してきたものらしい。立川飛行連隊の戦闘機隊はすでに出動している筈だった。
「オイ、候補生。来襲した敵機というのはどこの飛行機だか、わかるかネ」K隊長は、綽々《しゃくしゃく》たる余裕を示して候補生をからかった。
「はッ、アラスカの米国極東飛行隊でもないですし、アクロン、メーコン号にしては時刻がすこし喰いちがっています。中国からの襲撃でないことは、近畿以西の情報がないですから……」
「で、何処からだというのか」
「勿論、西比利亜《シベリア》地方からです。ハバロフスク附近を午後八時に出発してやって来たとすると、方向も進路も、従って時刻も勘定が合います」
「ふうん。候補生だけあって、戦略の方は相当なものじゃネ」
 隊長は、わが意を得たという風《ふう》に微笑した。
「隊長どの、敵機の高度を判定しました。王子、板橋、赤羽、道灌山の各聴音隊からの報告から綜合算出しまして、高度五千六百メートルです」
「そうか。立川の戦闘機も、ちょっと辛い高度だな。それでは高射砲に物をいわせてやろう。第一戦隊、射撃準備!」
 対空射撃高度が十キロを越す十|糎《センチ》高
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