に、遠いところをながめるような目つきになって、
「おそらく今、世界でいちばん貴重《きちょう》な物が、そこに生まれようとしているのです。荘厳《そうごん》と神秘《しんぴ》とにつつまれたその部屋です。あなたがたは、もしその荘厳神秘の中にひたっている主《あるじ》を、すこしでも、みだすようなことがあれば、あなたがたはとりもなおさず、地球文明の破壊者《はかいしゃ》、ゆるすべからざる敵でありますぞ」
 それを聞いていた川内警部は、口のあたりをあなどりの笑《え》みにゆがめて、
(ふん、邪宗教《じゃしゅうきょう》の連中が、いつも使うおどかしの一手だ、なにが神秘《しんぴ》だ。わらわせる)
 と、心の中でけいべつした。
「なんです、生まれ出ようとしている荘厳神秘のあるじ[#「あるじ」に傍点]というのは……」
 検事は、顔をしかめて、博士を追う。
「生命と思考力とをもった特別の細胞が、人間の手でつくられようとしているのだ。もしこれに成功すれば、人間は神の子を作ることができる」
 博士は、わけのわからないことをつぶやく。
「カエルの脳髄《のうずい》を切りとって、それを他の動物にうつしうえることですか」
 検事は
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