率論をまもる学者よりは、ずっと正しく、運命を理解しているからだ。すなわち運命がおどけ者であるということを、わきまえているのである。とうぜんとっぴょうしもない出来事をおこさせるおどけ者の運命は、案外わたくしたちの身近に、うろうろしているのだ。奇蹟《きせき》といわれるものは、案外たびたび起こるもので、わたくの感じでは、一カ月にいっぺんずつぐらいの割合で、奇蹟がおこっているのでないかと思う。
 ふしぎと運命と、そしてひんぱんに起こる奇蹟とに「世の人々よ、どうぞ気をおつけなさい」と呼びかけたい。
   一月十日
[#地付き]金属Qを創造する見込みのつきたる日しるす
[#地から3字上げ]理学博士 針目左馬太《はりめさまた》


   次の語り手


 右にかかげた日記ふうの感想文は、その署名によって明らかなとおり、針目博士《はりめはくし》がしたためたものである。
 これは博士の書斎にある書類棚《しょるいだな》の、原稿袋の中に保存せられていたもので、後日《ごじつ》これを発見した人々の間に問題となった一文である。
 みなさんは、針目左馬太博士のことについて、今はもうよくご存じであろうから、べつに説明
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