いるようす。
「そんなことでは、先生に取次《とりつ》ぎができません」
 というと、怪しい客は、
「そんなら、きみに取次ぎはたのまない。じぶんが奥へふみこんで、蜂矢探偵に面会をとげるであろう」
 といって、かれは前に立ちふさがる小杉少年の胸をぽんと押しかえした。すると小杉は、うしろへひっくりかえった。怪しい客は、えらい力持《ちからもち》だった。
 怪しい客は、どしどし奥へはいりこんだ。そして蜂矢探偵が書斎にいるのを見つけると、つかつかとその前へ―。
「蜂矢君。茶釜の破片をわたしたまえ」
 怪しい客は、しゃがれた声を出して、ぶっきらぼうにいう。
「いったいきみは、誰ですか」
 蜂矢探偵は、しずかなことばで、怪しい客にたずねた。
「茶釜の破片をわたしたまえ。いそいで、それをわたしたまえ」
「なぜ、きみにわたす必要があるんですか。それがわからないと、たとえその破片が手もとにあったとしても、きみにはわたせませんね」
「そんなことは必要ない。早くわたせ」
「きみは礼儀《れいぎ》を知りませんね。人間というものは、いやな命令をされると、ますます反抗したくなるものですよ。けっきょくきみは自分の思うとおり
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