したんです。それから踊るようなかっこうをしながら、綱わたりをはじめたんです。文福茶釜にかわって、じぶんが綱わたりを見せようというのです。見物人は、わっとかっさいしました」
「ふーん。それはかわっているね」
「ところが、とつぜん雨谷はおこりだしましてね、見物人をにらみつけて、さかんに悪口をとばすのです。見物人たちの方では、これをおもしろがって、わあわあとさわぎたてる。すると雨谷はますます怒って、ゴリラのように歯をむきだし、どんどんと舞台をふみならし、たいへんな興奮です。あげくのはてに、足もとに落ちていた文福茶釜の破片を拾いあげて、これを見物人席へ投げはじめたからたいへんです」
「ほうほう。それはたいへんだ。見物人はけが[#「けが」に傍点]をしやしなかったかい」
「けがをしました。だから見物人の方が、こんどはほんとうに怒ってしまいましてね、こんどあべこべに見物人の席から、茶釜の破片《はへん》を舞台へ向かって投げかえす。すると雨谷の方でも、それに負けていずに投げかえす。しまいには、茶釜の破片だけでなくて、棒ぎれや電球や本や弁当箱までが、見物人席と舞台の間にとびかうさわぎです」
「えらいことに
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