ふた」に傍点]がだんだんずれて、やがて大きな音をたてて下に落ち、茶わんとさら[#「さら」に傍点]をこわしてしまった。
雨谷君は、その音におどろいたか、ぱっとはね起きたが、お釜の方をちょっと見ただけでまたドーンと横に倒れて、ぐうぐうと眠ってしまった。
大金《おおがね》もうけの種《たね》
お釜は、ことこと、ことこと、と左右にからだをゆすぶっている。
お釜の中にネズミがはいっているわけではなかった。またお釜のかげで、ネコがからだを動かしているわけでもなかった。お釜は、ひとりでからだをゆすぶっているのだった。
それは運動力学の法則に反しているように思われた。他からの力がくわえられないで、金属製の釜が動くはずはなかった。
それとも電気の力か、磁気《じき》の力が、そのお釜にはたらいているのであろうか。いやいや、そんな仕掛けは、この部屋の中に見あたらない。
動くはずはないのに、お釜は実際ことことからだをゆすぶっている。
動いているのがほんとうであるかぎり、お釜には力がはたらいているのだと思わなくてはならない。その力はいったいどこにはたらいており、そしてその力の源《みなもと》はどこにあるのだろうか。
お釜の持主である大学生|雨谷《あまたに》君は、なんにも知らず、なんにも考えないで、しきりにいびきの音を大きくしているだけだった。
そのうちにお釜は、はじめにおしり[#「おしり」に傍点]をすえていた場所よりも、すこし前の方へ出てきた。そしてあいかわらず、からだを左右にぐらぐらとゆすっている。
それは一時間ばかりかかったが、お釜は壁ぎわから出発して、たたみ[#「たたみ」に傍点]一枚を縦《たて》に旅行し、そして夜具のはしからはみ出している雨谷の足首のそばにまで接近した。そのとき雨谷君は寝がえりをうった。かれの太い足が動きだして、いやというほどお釜にぶつかった。
「あいたッ」
おどろいてかれは目をさまし、ふとんをはねのけて、その場にすわりなおした。そしてしきりに目をぱちぱちして、あたりを見る。
「ありゃりゃ、お釜をひっくりかえしたぞ」
お釜はひっくりかえり、おしり[#「おしり」に傍点]が上に、さかさまになっていた。
「あああ、ごはんがたたみ[#「たたみ」に傍点]の上へぶちまかれちまった」
彼はお釜をおこし、その中へ、たたみ[#「たたみ」に傍点]の上に散ら
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