うにごらんに入れますから」
「参考として、聞いておきます」
「参考として聞いておく? ふん、あなたがたに警告しておきますが、この部屋の精密器械に対して、ぼくの立ち合いなしに動かして、もしもそれをこわしたときには、ぼくは承知しませんよ。場合によって、あなたがたをこの部屋から一歩も外に出さないかもしれませんぞ」
針目博士は、にわかにふきげんとなって、きびしい反抗の態度をしめした。そしてかれは、すみにすえてある大机の向うへ行って、どこかこわれているらしい回転いすの上に、大きな音をたてて腰をかけた。そしてタカのような目つきになって、検事たちの方へ気をくばった。
検事は、こんな場合にはよくなれているので、相手がかんかんになればなるほどこっちは落ちつきを深めていった。そして部下たちに、この部屋をじゅうぶんに捜索し、れいの事件に関係ありと思われる証拠物件があったら、さっそく検事を呼ぶようにと命令した。
それから捜査がはじまった。一同は、これまであつかいなれない器械器具るいだけに、どうしらべてよいのやら、こまっているようであった。しかしこころえ顔の係官たちは、床の上にはらばいになって器械台の下をのぞきこんだり、戸棚の引出《ひきだし》をぬきだしたりして、どんどん仕事を進めていった。
だが、思うようなものはすぐには見つからなかった。
この部屋の、博士がいま腰をおろしているのと、ちょうど対角線上の隅《すみ》にあたるところに、一部に黒いカーテンがおりていた。それを開いて中へ入った川内警部は、そこにもやはり大きな引出が、三段十二個になってならんでいるのを発見した。その引出は、そうとう大きかった。しかしかぎもかかっていなかった。引出にはそれぞれ番号札がついていた。
警部が、その引出のひとつに手をかけたとき、誰も気がつかなかったが、針目博士の口のあたりには、あやしいうす笑いがうかんだのであった。もちろん川内警部は、それに気がつくはずもなく、引出のとってに力をいれて、ぐっと引きだした。
「おや、これは何だ!」
警部は、すっとんきょう[#「すっとんきょう」に傍点]な声をあげた。彼の顔からすっかり血の気が引いてしまった。
見よ、その半びらきになった引出の中には、黄いろくなった人間の足が二本ならんでいた、いや、足だけではない。裸体《らたい》のままの死骸《しがい》がそこにはいっているにちが
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