めた。そしていそいで部下のあとを追って中へはいった。
「うむ」
検事はうなった。あやうく大きな叫び声が出そうになったのを、一生けんめいに、のどから下へおしこんだ。
かれらはいったいなにを見たのであろうか。
それはなんともいいようのない奇妙な光景であった。窓のないこの部屋の四つの壁は、隣室《りんしつ》につうずる二つのドアをのぞいたほかは、ぜんぶが横に長い棚《たな》になっていた。下は床のすこし上からはじまって、上は高い天じょうにまでとどいて、ぜんぶで十段いじょうになろう。
そしてこの棚の上に、厚いガラスでできた角型《かくがた》のガラス槽《そう》が、一定のあいだをおいてずらりとならんでいるのだったが、その数は、すくなくとも四、五百個はあり、壮観《そうかん》だった。
しかもこのガラス槽の中には、それぞれ活発に動いている生物がはいっていた。検事が最初に目をとどめたガラス槽の中には、頭のない大きなガマが、ごそごそはいまわっていた。もっともそのガマは、背中にマッチ箱ぐらいの大きさの、透明な箱を背おっていた。その箱の中には、指さきほどの灰白色のぐにゃぐにゃしたものがはいっていたが、検事はそこまで観察するよゆうがなく、ただふしぎな頭のない大きなガマがガラス槽の中で、あばれまわっているのにびっくりしたのであった。
検事は、おどろきの目を、つぎつぎのガラス槽に走らせた。その結果、かれのおどろきはますますはげしくなるばかりだった。かれはもうひとつのガラス槽の中において、たしかに木製《もくせい》おもちゃにちがいない人形が、やはり透明な小箱を背おってあるきまわっているのを見た。
それはゼンマイ仕掛けの人形とはちがい、どう見ても昆虫《こんちゅう》のような生きものに思えた。
つぎのガラス槽の中では、やはり頭のないネズミが、透明の小箱を背おって、人間のように直立し、のそりのそりと中を散歩しているのを見た。またそのお隣のガラス槽《そう》の中では、一本足のコマが、ゆるくまわりながら、トカゲのように、あっちへふらふら、こっちへちょろちょろと走りまわっているのを見た。なんという奇怪な生物の展覧会場であろう。
いや、展覧会場ではない、これは針目博士が、他人にのぞかせることをきらっている密室のひとつなのであるから、極秘《ごくひ》の生きている標本室《ひょうほんしつ》といった方がいいのだろう。
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