って、検事がお会いしたいといっていると、会見を申しこんでくれたまえ」
「はい」
 田口警官は、この部屋を出ていった。
 長戸検事は、そのあとで室内をぐるぐる見まわしていたが、やがてかれの目は一点にとまった。それはこの部屋のまん中に、天じょうからさがっている電灯《でんとう》のガラスのかさ[#「かさ」に傍点]であった。
 検事は歩きだして、そのまま下までいった。かさは検事の頭よりわずかに高かった。
「かけている。かさがかけている。新しいきずだ」
「ああ、そのガラスの破片《はへん》なら、ここにこれだけ落ちていました」
 と、検事の部下の巡査部長の木村が、紙片に包んであったものをひろげて見せた。
「その破片は、このかさにあうかしらん」
「はい。ぴったりあいます。さっきためしてみました」
 検事は、まんぞくそうにうなずいた。
「この入口のドアをこわす前に、この室内でガラスのこわれる音がしたと、この家の人たちは証言しているが、そのときこわれたのは、この電灯のかさなんだ。すると、被害者ではない他の生きている人間が、そのときこの室内にいたことになる。おそらくそれが犯人であろう」
 検事は、ここまでは明快な判断をくだした。しかしそのところでかれは、はたとつまった。
「……しかるに、この部屋をひらいて中をしらべてみたが、被害者いがいに人間のすがたはなかったのだ。おかしい。……犯人はどうしてもあのとき、この部屋の中にいたにちがいないのに、なぜすがたを見せないんだろう」
 検事は、しきりに小首《こくび》をかしげている。
「検事さん。この部屋は密室と見せかけて、じつはどこかに秘密の出入口があるのではないでしょうか」
 と、木村巡査部長はいった。
「そこから犯人は、いち早く逃げだしたという考えだね。そうなれば、早くその秘密の出入口を見つけてもらいたいものだ」
「いま一生けんめいに心あたりをさがしているんですが、まだ見つかりません。この家の主人が出てきたら、といただしていただくんですね。主人ならかならず知っているはずですから」
「なるほど」
「検事さん。ここの主人は、どうもくさいですよ。わたしは第六感でそう感じているんですが……」
 といっているとき、とつぜん室内で大きな声がした。
「あっ、やられたッ。誰か手をかしてくれ。足を斬られた」
 その叫び声は、ふとった川内警部の声だった。警部は部屋の一
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