、身許不明の猿田の死体の中にはいりこみ、そこをどうにか逃げ出したものらしい。そういうことは、金属Qの力と智恵とでできないことではない。その上で、彼はおそらくこの針目博士の地下室へもぐりこみ、そこで針目博士そっくりのマスクを作ったり、健康を早くとりもどすくふうをしたり、博士の古い服を盗み出して着たり、その他いろいろの仕事をやりとげたのであろう。
まことにおどろくべき、そしておそるべき怪魔金属《かいまきんぞく》Qであった。
こうして、始めにあらわれた針目博士の正体が金属Qであるとすれば、あとからあらわれた針目博士こそ、ほんものの針目博士なのである。そう考えて、この際《さい》まちがいないであろう。蜂矢は、その方へふりかえった。
「これでいいですか、針目博士」
すると機銃《きじゅう》みたいなものを、なおもしっかり抱《かか》えている針目博士が、
「それでよろしい。どうです。わかったでしょう。かれこそニセモノであったのです。まったく油断もならぬ奴です。もともとわたしが作った金属Qですが、まったくおそろしい奴です」
といって、博士は顔を青くした。
「どういうわけで、あなたに変装したのでしょうか。何か、はっきりした計画が、金属Qの胸の中にあるんでしょうか」
蜂矢探偵は、そういってたずねた。
あとになって考えると、蜂矢のこの質問は、あんまり感心したものでなかった。そんな質問はあとでゆっくり聞けばよかったのである。それは不幸なできごとの幕あきのベルをならしたようなものだった。
「それはですね。金属Qという奴は――」
と、博士が蜂矢探偵の質問に答えはじめたとき、機銃のような形をした人工細胞破壊銃《じんこうさいぼうはかいじゅう》をかまえた博士に、ちょっと隙《すき》ができた。
この人工細胞破壊銃というのは、その名のとおり、人工細胞にあてると、それをたちまちばらばらに破壊しさる装置で、強力に加速された中性子《ちゅうせいし》の群れを、うちだすものだ。かねて博士は安全のために、こういうものが必要だと思い設計まではしておいたのであるが、「生きている金属」を作る研究の方をいそいだあまり、実物はまだ作っていなかった。その後、金属Qがあばれるようになって、博士はかくれて、この人工細胞破壊銃の製作に一生けんめい努力したのだ。そのけっか、きょうの事件に間にあったのだ。
が、今もいったように、
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