にならなくて、困るでしょう。そういうやりかたは、きみにとってたいへん損ですよ」
「早く破片を手にいれたいのだ。これがきみにわからんのか」
 怪しい客は、いらいらしてきたらしく、大きな黒頭巾《くろずきん》の奥で、しきりに小さな顔をふりたてている。そのとき蜂矢は、怪しい客の顔が、ほんとうの人間の顔ではなく、マネキン人形の首であることを見破った。そのマネキン人形は、かわいい少年の首であった。
 人形の首が、なぜ口をきくのか。生きている人間のように、ものごとを考えたり、こっちの話を聞きわけたりするのか。とにかく、これはとんでもない怪物であることが察しられた。
「いや、ぼくは、礼儀を知らない人間とおつきあいをするのは、ごめんです。もちろん、何をおっしゃっても、ぼくは聞き入れませんよ。協力するのはいやです……」
「いうことをきかないと、殺すぞ」
「殺す、ぼくを殺して、なんになりますか。すこしもきみのためにはならない、茶釜の破片をしまってある場所は、もしぼくが殺されると、きみにおしえることができない。それでもいいんですか」
「ううむ――」
 怪しい客は、うなりごえとともに、からだをぶるぶるふるわせて、
「早く出せ。きみが茶釜の破片を持っていることは、今きみが自分でしゃべった」
「たしかに、持っています。話によれば、おわたししてもいいが、礼儀は正しくやってもらいましょう。まず、そのいす[#「いす」に傍点]に腰をかけてください。ぼくもかけますから、きみもかけてください」
 そういって蜂矢探偵は、先に自分のいす[#「いす」に傍点]に腰をおろした。
「わたしは腰をかけることができないのだ」
 怪しい客は、うめくようにいった。
「なぜ、きみにそれができないのか。そのわけを説明したまえ。およそ人間なら、誰だって腰をかけるぐらいのことはできる。きみは、人間でないのかね」
 蜂矢は、ことばするどく相手にせまった。
 すると怪しい客の全身が、がたがたと音をたてて、大きくふるえだした。怒《いか》りに燃えあがったのか、それとも恐怖《きょうふ》にたえ切れなくなったためか。


   恐ろしき笑い声


「もうきみの力は借りない。今まで人間のまねをしていたが、ああ苦しかった。もうこれからはわたしの実力で、必要とするものをさがし出して持っていくばかりだ」
 怪《あや》しい客は大立腹《だいりっぷく》らしく、声
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