、玉太郎をきっとにらんだ。玉太郎は、氷の雨を全身にあびたように、がたがたふるえ出した。
が、ここで気絶しては、自分が背負っている重大な義務がはたせないと思いなおして、けんめいにこらえた。
「今だ。早くにげなさい。ツルガ博士。ネリーさーん」
玉太郎は、全力をあげて、やっとそれだけのことをいった。
と、恐竜はとつぜんどぼんと、沼の中に姿を消してしまった。
沼の表面には、はげしい波紋が起って、岸のところへ波がざぶりとうちあげた。
竪琴が急調《きゅうちょう》をふくんで鳴りひびいた。ツルガ博士の手が、竪琴の糸の上を嵐のようにはしっているのだ。
ネリが、父親の博士にだきつくようにして、その耳に何かささやいている。
そのとき玉太郎は、とつぜん大きな身体にだきつかれた。
「おお、玉太郎、玉太郎。よくここへもどってくれた」
その大きな身体は、実業家のマルタンであった。ツルガ博士が腰をおろしていた大木のうしろで、ぶるぶるふるえていたマルタンであった。
「君は小英雄だ。恐竜をおっぱらってくれた」
マルタンは、玉太郎へほめことばと感謝を、こういって投げつけた。
「いったい、どうしたのです」
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