た探検隊員は、それでも助かろうとして、手足をばたばたさせる。どうです、すごいじゃありませんか。団長さん。あんたは、恐竜の口にくわえられて、手足をばたばた動かせますか」
「とんでもないことをいう人だ。わしゃ、かなわんよだ」
「まあ、そのときは、一つ全身の力をふるって、手足を大いにばたばたと、はでに動かして下さいよ。それについて団長とけいやくしましょう。十分映画効果のあるように、はでにばたばたやって下されば、その演技に対して僕は二百五十ドルをあんたにお支払いいたしましょう。どうです、すばらしい金もうけじゃあないですか」
「とんでもない。瀕死《ひんし》の人間が、そんなにはでに手足をばたばたさせられるものか。たとえ、それができるにしても、わしは恐竜にたべられるのは、いやでござるよ」
「ちぇッ。こんないい金もうけをのがすなんて、団長さんも慾《よく》がなさすぎるなあ」
映画監督ケンは、残念そうに舌打をしながら、目を丘の上へやった。
そのときだった。
とつぜん、わんわんと、崖の上で犬がほえだした。玉太郎はおどろいた。ポチであろうか。ポチのようでもあるしポチの声とはちがっているようでもある。玉太郎は、かたずをのんで崖の上に目をすえる。
「ほッ、恐竜がないているぞ。ふん、恐竜は犬みたいな声でなくと見える。………おい、カメラ、ようい!」
ケンは、手をあげて撮影技師のダビットに命令した。
と、崖の上を、右から小さい犬が走り出た。まぎれもなく、それはポチであった。
「あッ、ポチ! ポチだ」
と玉太郎は一生懸命、下から呼ぶ。しかしポチには玉太郎の声が聞えないらしく、崖の上で、うしろをふりかえってほえたてる。
「あれッ。あんなチンピラ犬か」
ケンはがっかりした。が、彼はつづいて、爆発するような声でさけんだ。
「あッ、出た。うしろから恐竜が現われた。カメラ、はじめ。ううッ、すげえ、すげえ。そのチンピラ犬。早く恐竜にとびつけ。そしたら懸賞五百ドルをていするぞ」
ケンは、どなり、さけぶ。
大恐竜が、ほんとに現われたのだ。崖の上、右手から長い首だけをぬーッと出して、じろッと崖下の四人の人間を見た。
くやしい失敗
巨獣恐竜《きょじゅうきょうりゅう》とテリアのポチとでは、相撲にならない。
ぬっと恐竜が首を前へつきだすと、ポチはあわてて尻ごみし、そして崖から足をふみはずして、きゃんきゃんと悲命をあげながら、下にすべりおちた。
「ポチ。ポチ。ぼくだよ、しずかにおし」
恐竜の出現《しゅつげん》よりも、愛犬ポチがぶじにもどって来たのでうれしさに夢中になっている玉太郎だった。ポチは、玉太郎の胸にだかれる。
「ちぇッ。惜しい。もうすこし何か芝居をやってくれればよかったのに、もうひっこんじまった」
映画監督のケンは、残念そうに、崖の上を見上る。恐竜の首は、すでに引込んでしまって、倒れた椰子《やし》の木が、そのかわりをつとめているように見える。
「おい、ダビット。“恐竜崖の上に現わる”の大光景は、もちろんうまくカメラにおさめたろうね」
「失敗したよ。怒るな、ケン」
「えッ。失敗したとは、どう失敗したんだ」
ケン監督は、顔色をかえて、ダビット技師の肩をつかんでゆすぶる。
「レンズのふたを取るのを、忘れてたんだ。あやまるよ」
「なに、撮影機のレンズのふたを取るのを忘れたというのか。それじゃ、あの息づまるような恐竜出現の大光景が、たった一こまもとれていないのかい。じょうだんじゃないぜ。生命がけで、こんな熱帯の孤島まで来て苦労しているのに……」
「今後は気をつけるよ、ケン。なにしろ、おれは恐竜のあまりでっかいのにびっくりして、レンズのふたを取るのを忘れてしまったんだ。これからは、こんな失敗はくりかえさない。しかし、ああ、どうも、全くおどろいたね」
「恐竜を恐《おそ》れていては仕事ができないよ。あんなものは、針金と布片《きれ》と紙とペンキでこしらえあげた造り物と思って向えばいいんだ。しっかりしろよ」
「すまん。全く、すまんよ」
「こうなると、次はもっとすごい場面に出あいたいものだ。おお、隊長どの。この次、恐竜はどこに出ますかね」
監督ケンは、どこまでも人をくった質問をして、伯爵隊長の目を丸くさせる。
「わしが恐竜を飼っているわけではあるまいし、そんなことを知るもんかね。……しかし恐竜がこの島にすんでいることだけはまさに証明された。しからば、今日のうちにも恐竜に再会することができるじゃろう」
そういって伯爵隊長は、吐息《といき》をつき、胸をおさえた。昨日来、伯爵はおどろき又おどろきで、心臓の工合が少々変調をきたしている。
「あの崖をのぼって、恐竜がさっき首を出したところがどんな場所なんだか、調べてみたらどうですか」
ポチをだきしめている玉太郎が、
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