向《おもてむ》きは南海の孤島《ことう》の調査ということになっているが、本当はキッドの宝物をさがすのが目的だったんだ」
「へーえ」
「船長セキストン伯は、何かの記録から、キッドの宝物がここにかくされていることを知ったんだ。それで第一回の探検をやった。宝はたしかにあった。しかし恐竜のために命からがら逃げだして、宝物どころの騒ぎじゃなかったんだ。こりゃおめえも知っているだろう」
「へえ、団長一人が救かったといいやしたね」
「セキストンにしてみりゃ、その宝が手に入らなかったのは、返すがえすも口惜《くや》しい、なんとかして、それを手に入れようと思ったんだ」
「なるほど」
「ところが、それを俺が知ったという、はじまりなんだ」
「へえ」
「港の酒場で、俺が話に聞いたキッドの宝物のことを話していたら、ぽんと肩をたたく奴があるじゃねえか」
「ええ、え」
「それが奴だったのさ。お前はキッドの宝がどこにかくされているかを知らんだろうが、俺はそれを知っている。しかも実際にこの眼で見たというんだ」
「……」
「はじめは、俺もこの爺《じい》さん、かわいそうに少し頭にきているなと思ったんだ。だから相手にもしなかったが、だんだん話を聞いてみると、まんざら嘘《うそ》でもないらしいんだ。そこで、いろいろ相談することになったんだ」
「……」
「おい、そう身をのり出さなくともいいから、しっかりこげよ」
「そこでな、俺はあるだけの金を出した。それでも船もやとえなけりゃ、水夫もあつめられない。考えたあげくが探検船さ。そうなると物ずきで冒険好きのアメリカの活動屋さんがすぐ賛成して来た。マルタンという野郎も珍らしい島だったら、それを種にして一もうけしようという下心でついて来た。めんどうなのはツルガ博士という考古学者とかいう学問の先生だ。こんな先生はかえって、足手《あしで》まといにはなるし、金はもっていないが、表面が、島の探検ということになった以上、つれて行かぬことにゃ、世間からへんに思われる。それで仕方なくつれて行くことにしたのよ」
「それで張とかいう中国人は」
「これはマルタンのような下心があるか、ツルガ博士のように勉強のために来たのか、わからねえ、しかし、参加金《さんかきん》だけは出したんで、連れて行くことにしたのよ」
「なるほど、お話を伺《うかが》えば、いろいろとわかって来ましたよ」
「それで、キッドの宝はみつかったんですか」
「それがよ。恐竜の巣のあたりになるんだ」
「あたりって、モレロ親分は見ないんですかい」
「うん、俺は見つけたわけじゃない」
「で、どうして巣のあたりにあるってことがわかったんです」
「まあ、そんな事位、わからあね、まずセキストンがあの崖の上からのぞいて、喜びの声をあげた。そのとたんに、俺は彼が宝ものがぶじだということを知ったのだと思ったんだよ」
「その次に、奴は縄でおりていったろう、そして慾張りの正体をばくろしたんだ」
「というと」
「他の奴等にとられぬうちに、自分で一人じめにしようと思ってな、それがあの結果さ。縄につかまったまま、落ちていった」
「助かったでしょうかね」
「さあ、そりゃわからねえ、アメリカさんがさがしに行ったが、どうなったか」
「助からぬとすると、ちょっと困りますね」
「何がさ」
「宝のあり場所が」
「馬鹿野郎、だからお前はいつまでも水夫で出世しねえんだ。宝はあるんだ。たしかにあるんだ。セキストンが飛び込んだことが第一の証拠だ。あの辺にあるってことがわかりゃいいじゃねえか」
「でも、可哀《かわい》そうでしたね」
「しかたねえ、一人じめにしようとした罰《ばち》さ、俺はそんなことはしねえ、お前たち二人に手つだってもらったんだ、分け前はちゃんとやるよ」
「ありがとうございます」
「お礼をいうにゃおよばねえよ。働きにたいしてはそれ相当の報酬《ほうしゅう》をうるのは当然じゃねえか。俺はものを合理的に考えるほうだからな」
「さすがはモレロさんだ」
「一つ、やってくれよ」
「ええ、十分に働きますよ」
「さ、もう静かにしようぜ、巣も近づいて来た」
 海上からそそりたつ岩と岩との間を、ボートはたくみにぬってすすむ。
「さ、櫂をあげろ。水の音でも奴等に感づかれちゃいけねえ、ここで少し待とう、風の向きが変らねえと、奴等に感づかれるからな」
 さすがにモレロだ。細心《さいしん》の注意をはらっている。風上から進むことは、人間の匂《におい》を恐竜の鼻に送ることになってまずい。だから風がかわって、風下になってから進もうというのだ。
 船を岩と岩の間にはさませて、三人はしずかに時のうつるのをまった。
 そのうち波がしずかに、せまって来た。
 入江になっているので、波は高くない。
 一時間――二時間――
 猫が鼠《ねずみ》をまつように、気長く、しかも油断なく、
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