ろしでもあげましょうか」
「そうだ。しかし、僕には任務が残っている。我々が救われたいために、傷ついた友人をそのままにしておくことは出来ない」
 ケンは厳粛《げんしゅく》に言いはなつと、今まで熱狂的《ねっきょうてき》にあおいでいた眼をふせて、岬のはずれをふたたび見守った。
「どれ、少し近づいてみよう」
 オールがうごいた。玉太郎は舵棒《かじぼう》をとった。
 爆音は次第に大きくなる。
「島の誰かが合図をするだろう、僕らは今の責務《せきむ》を完遂《かんすい》しようじゃないか」
 ケンは波よりもしずかに云う。
 朝日を受けたその顔には、神々しいばかりのかがやきが見られた。


   あとがき


 恐竜島の長い物語はここで一まず筆をはぶくことにする。
 もう作者はこの後、くどくどと長い続きを書くひつようをみとめなくなったからだ。
 しかし、愛読者諸君は、島に残された人々の運命を知りたいに違いない。そこで、これから後の物語を、作者は簡単に述べることにしよう。
 ケンと玉太郎が発見した飛行機は、二十四人乗りの大型飛行艇だったのである。
 実業家マルタン氏が、島への出発に先立って、十五日しても船が帰らなかったり、船から通信がいかなかったら救助に来るようにとひそかに依頼してあったのです。その航空会社がマルタンの依頼を忠実に守って救助にやって来てくれたのである。
 海賊船は調査の結果は、やはり大海へ乗り出すには、あまり古すぎ、傷つきすぎていた。もし救助艇がやって来なければ、一同はこの船で帰国の途に着いた事であろう。しかし第二第三の困難や冒険が、その行手にひかえていて、無事に本国へもどれたかどうかは、わからなかったであろう。
 モレロ、フランソア、ラルサンの三人は、気の毒ながら生きかえらなかった。だからキッドの宝の秘密を知っている者はいなくなってしまったわけである。
 爆音におどろいた恐竜たちは、ラウダの必死の口笛でおさまった。帰国への出発は、探検船が出航するのとは大へんにちがって安全なものであった。
「もうふたたび訪れることはあるまい」
 飛行艇が出発する時、南国の花で作られた花たばが、機上からなげられた。
 島に建てられた四つの墓に捧《ささ》げられたのである。
 今でも恐竜島は、四つの墓も恐竜に守られて、南国のみどりの波の間に浮いていることだろう。
 ツルガ博士はパリーに帰ってか
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