「いや自由にはできない。が、彼等を喜ばせることはできるんだ。僕の口笛がそれだ」
 そういって、ラウダは高らかに口笛をふきならした。
 恐竜はよったように、ききほれている。
 モレロ、フランソア、ラルサンの身体は、三匹の恐竜の口から、ぼとん、ぼとんと海の中にすてられた。
 三人の身体は一度沈んだが、再び浮き上って、流されはじめた。
「死んでいるかも知れない。もしかすると気絶をしているだけかもわからない。僕はここで恐竜をおさえているから、岬《みさき》のむこう側に行ってくれたまえ、三人の身体は潮の流れにのって、あっちへとどくのだ」
「オーケー」
 ケンと玉太郎は、ラウダに云われるままに再び山にのぼり、大きくまわって、岬のはずれにいそいだ。
「おや、あすこにボートがある」
「うん、誰が乗って来たのだろう、今の我々にはなんといっても絶好《ぜっこう》の味方だ。拝借《はいしゃく》しょう」
 二人はすべるように崖を下っていった。
 ボートはモレロたちの作った丸木船《まるきぶね》だ。けれどもとより二人は知らない。
「さ、玉ちゃん乗れ、君は舵《かじ》を、僕はオールをもつ」
 ボートは波に乗って、恐竜に見つけられぬように注意しながら、待った。
「おや」
 ケンがオールの手をとめた。
「玉ちゃん、聞えないかい」
「なんです」
「ほらあの音」
 玉太郎も耳をすませた。
「ああ、虫の羽音《はおと》のようですね、ブーン、ブーンという、蚊のような音ですね」
「うん、あれは君、飛行機の爆音《ばくおん》だよ」
「え、飛行機」
「そうだ。しばらく、ようすを見よう」
 蚊の羽搏《はばた》きににたその音は次第にはっきりして来た。やがて爆音だということが感じられた。
 しかし、大きくひろがっている蒼空《あおぞら》の中に、その姿を見つけることはなかなかむずかしい。二人は眼をギロギロさせて大空をさがしたが、蚊よりも小さい姿は見つからなかった。
「あ、あれですよ」
 玉太郎の眼はするどい。
「どれ」
「ほら、あすこです」
 ケンの眼にはまだ見えなかった。
「うん、うん、ああ、飛行機だ」
 しばらくして、ケンの眼にもわかったらしい。
 朝日をあびて、その翼《つばさ》が、時々キラリキラリと光っている。
「我々を救《たす》けに来たのでしょうか」
「そりゃわからない。しかし、なんとか僕らのいる事を教えたいものだ」
「の
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