仕事熱心だなあ」
「そんなに苦労してとったフィルムが、いつ世界の人の眼にとまるのだ。永久にこの宝島に葬《ほうむ》りさられるとも限らないのだよ」
 張が重々《おもおも》しい声で死の予告をした。
「それは僕らが死ぬということにきめているからだよ。僕らは助かる。そして文明社会に帰れる。帰った翌日にこの映画はもう封切られるのだ。ニューヨーク劇場にしようか。それとも、ワシントン劇場にしようか。僕はそれまで考えているんだ」
「夢のような話だ。奇蹟のむこう側の物語だよ、君のいうことは」
「いや違う。明日の事を、僕はいっているんだ。大統領をはじめ朝野《ちょうや》の名士を多数招待して封切《ふうぎ》る場合はとてもすばらしいぞ。僕はケンと一しょに舞台にのぼる。嵐のような拍手だ。ケンが恐竜島の探検談を一席やる、僕がつづいて島の生活について語る。そして映画についての説明をする。人々はただ驚嘆《きょうたん》のうちに僕らの行動をたたえるだろう。リンドバーグのように、ベーブ・ルースのように、僕らは世紀の英雄になるのだ」
「やめてくれ、ダビット。その話は帰りの船の中で聞こうじゃないか」
 ダビットは不平そうだった。だがこんなみじめな場合においても、明るい、ほがらかな性格だ。希望をすてない態度に、玉太郎はアメリカ人のよさを見せつけられたように感じたのだった。
「さ、諸君、出発だ」
 ダビットはカメラのレンズのおおいをとった。
 不平をいいながらも、誰もがこの演出通り歩きだした。
 一歩、一歩すべる岩道を湖の方にくだってゆく。そのゴロゴロした岩道の向うに、大きい帆船が、御殿《ごてん》のようにそそりたっていた。


   僕らは助《たすか》る?


「この船に乗り組む途《みち》はただ一つ。あすこです」
 ラウダが指差《ゆびさ》した。
「あの岩から、岩づたいにわたって、浅瀬《あさせ》を通って行くのです。さ、僕の後についてきたまえ」
 いくども、いやいく百回も通いなれた路にちがいない。ラウダはすっかりなれた足取りで、岩道をのぼっていった。
 あとからすぐダビットがつづいた。ダビットは、彼の計画通り、一同が船に乗りこむのを帆柱《ほばしら》の陰あたりからおさめる考えらしい。
 ラウダが浅瀬を通って、船ばたにたれている綱にすがって、軽く船内に入ると、ダビットもつづいてあがった。もっともダビットの場合は、ラウダほど身
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