いよ。いつかその深い穴にも水がたまるだろう、するとこの流れもその時には止ってしまうにちがいない」
「すると、前と同じになるわけだな」
「喜ぶのは少し早いぞ」
「そうとも、じゃあどうするんだ、ケン」
「一つ希望がある」
「なんです、ケンの小父さん」
「今の岩の変化によって、他にも変化が出来はしないかということだ。たとえば、僕らの頭の上に別の穴があいて、そこから僕らは逃げだせるのではないかという見方さ」
「そんなうまいぐあいにゆくかな。ゆけばよいが、神様どうぞ、そうなりますように」
「待っていたまえ」
ケンはそろりそろりと岩につたわりながら、歩き出していった。
「ケン、神様は我々に幸せを、およせ下さったかい」
しばらくしてダビットが訊《たず》ねた。
「まだだ」
闇の中で返事がかえってきた。
ケンはそろり、そろりと岩肌《いわはだ》をつたわって穴をさがしているに違いない。
「あった。あったぞ」
「助かったね」
「アーメン」
一同はほっとした。
「どこだ」
「ここだ。君らのいるところから五六歩のところだ」
三人はお互いに手をしっかりとにぎりあいながら水の中を歩き出した。
怪船《かいせん》と怪人《かいじん》
穴は人一人がやっとぬけられるような小さい穴だった。一人ずつ、身体を横にしてはって行かねばならない。まずケンがとびこんだ。つづいて玉太郎、それにダビット、しんがりは張だ。
前の人の足を左手でおさえながら、右手ですすむのだから、大へんな骨折りだった。
しかし、この努力の彼方には救われるという希望があったので、これ位の苦しみは、四人にはなんでもなかった。
しばらくすると、四人のほおに冷い風がふいて来る。風というよりも空気の流れだ。その流れの中に、かすかではあるが、例の恐竜のなまぐさい香りがまじっているのだ。したがって、この穴の出口に恐竜がいるのかも知れない。あるいは恐竜の巣につながっているのであろう。そうした危険はたぶんにあるのだ。しかしそんなことを心配してはいられない。出たとこ勝負でぶつかってゆくより今の四人には手のほどこしようがないのだった。
水中に張ってある綱は生命の綱ともいうべきであった。綱を引く事によって水からの恐怖がまずさり、次にこうした脱出穴《だっしゅつあな》をさがし出せたのだ。しかし、それよりももっと大きな幸福が、四人ばかりでな
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