ねる
「太い」
「何をつないでおいたのかな」
「何がつながれているのかと今考えているんだ。まてよ。この太さは、あっ」
「どうしたのです」
「船で使うロープに似ている」
「船がつないであるのかな」
「まさか」
「ケン小父さん、一つひっぱってみましょう」
「うん、ひっぱってみよう」
玉太郎とケンがひっぱった。あとからダビットも張も手伝った。
なにしろ、長い間水につかっていたらしい、ぬるぬるしてなかなか力が入らない。
「よいしょ」
玉太郎が気合をかけた。
「よいしょ」
みんなが、それに和《わ》した。
そのうち水はいよいよ増してくる。けれど四人は水の恐ろしさよりも、この綱をひっぱれば、そこに何か表われるものがあるように感ぜられたので、一心に力を合せて引いた。
「おい、ちょっと待て」
ケンが一同のかけ声をとめた。
「あれを聞け、音がする」
みんなは、いきをのんだ。
ゴボ、ゴボ、ゴボ、ゴボ。
かすかだけれど水の流れる音だ。
「綱を引いたので、どこかに穴でもあいたにちがいないな、ケン」
ダビットの声はうれしそうだ。
「もう一ふんばりひっぱりましょう」
玉太郎も喜びにふるえている。
「そうだ、さ、力を合せて」
希望の光はいよいよ明るくなった。もう一息だぞ。
「よいしょ、よいしょ」
疲れもどこかに吹きとばせとばかり、四人は力をいれた。
綱は少しずつではあるが、うごくようだ。
五分、十分、二十分。
水は胸から首へひたひたとせまってきた。
ともすると疲れのために手の力がぬける。身体中が冷さのためにしびれる。力を入れたはずの腕の力もいつかぬけてくる。
どの位だろう。
「や、うごいたぞ」
それからはわけはなかった。
綱はずるずるずるずるとのびてきた。
瞬間、どうっという小音が一同の鼓膜《こまく》をうった。
「水が流れた。助かったぞ」
今まで四人の周囲をひたひたと包んでいた水が、一つの流れとなって、勢よく四人の前を通りすぎていった。
「綱を引いたので、岩がゆるんだのだな」
「岩がゆるんだんじゃない、もっと深い穴がこの先にあったんだぞ、その口をふさいでいた岩を、われわれがどけたのだよ」
「それも綱をひっぱったためなのにちがいない」
四人はともするとおしながされそうな水勢《すいせい》の中に、かたくだきあっていた。
「おいそうだ。僕らはこうしちゃいられな
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