豆潜は競売《きょうばい》に出たが買い手がないために売れなかった。そして、なんども競売をくりかえし、なんでも、十何回目かに、今の売り主が一たばにして買ったんだそうであるが、それはとほうもなくやすい値段だったそうである。
 売り主が、そういうんだから、うそではあるまい。それに、じっさいその豆潜についている値段札を見ると、ほんとにやすいのである。ぼくたちは、模型《もけい》の電気機関車とレールと信号機などの一組を買うだけのお金で、その豆潜一隻を買うことができるのだった。ただみたいなものだ。
「ジミー、これを買おうや」
「うん、買おうな」
 サムもぼくも、このとき、皿のように目をむいて、目をくるくる動かしていたそうだ。ほしいものにぶつかって、うれしさに身体がふるえていたんだろう。
 買っちゃった!
 豆潜水艇を一隻。とうとう買ってしまったのだ。

   すばらしい計画《けいかく》

 ぼくたち二人は、しばらくその豆潜水艇|恐龍号《きょうりゅうごう》(どうです、すばらしい名前ではないか)の運転を習うために、ギネタ船渠《ドック》会社へ通った。技士《ぎし》のアミール氏は、元海軍下士官で潜水艦のり八年の経歴がある人だそうで、ぼくたちに潜水艦の操縦を教えるのは上手であった。
「なあに、こんなものの操縦なんか、わけはない。自分が人間であることを忘れて、魚になったつもりで泳ぎまくればいいんだ。ほら、このとおり……」
 アミール技士は、潜水艦を海面からさっと沈めたり、また急ぎ海面へ浮きあがらせたり、まるで自分が泳いでいるようにやってみせるのであった。
「ただ、忘れてならないことは、潜《もぐ》るときに、上|甲板《カンパン》への昇降口が閉まっているかどうか、それは必ずたしかめてからにすること。いいかね」
「はいはい。聞いています」
「それから、潜るときの注意としてもう一つ。それは上甲板に水につかっては困るものが残ってやしないか、それに気をつけること」
「なんですか、水につかっては困るものというと……」
「実例をあげると、すぐ分る。たとえば、上甲板に人間が残っている。それを忘れて、そのまま艇が海の中に潜ってしまえば、その人間は、たいへん困るだろう。困るどころか、溺死《できし》してしまうからね」
「ははーん、なるほど」
「第二の例。上甲板に、虫のついた小麦粉を陽《ひ》に乾《ほ》してある。それを中へ入
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