いくらでもでてくる。が、このへんでやめておこう。
 とにかくすばらしいではないか、熱帯地方の多島海は!
「よし、行こう」
「それできまった。行こう、行こう」
 ぼくもサムも、語り合ったり、熱帯|地理書《ちりしょ》のページをくったりしているうちに、すっかり熱帯多島海のとりこになってしまった。もう明日にも行きたくなった。
 二人とも気が短い。夏休みはまだ四週間あまりたたないと来ないのである。
「ああ、夏休みになるまで、ずいぶん日があるよ。退屈だねえ」
「今年は暑いから、夏休みを一週間早くしてくれてもよさそうなもんだね」
 サムも、ぼくも、好き勝手なことをいう。
 が、出発の日まで、それほど退屈しないですんだ。というのは、熱帯地方で六十日をおもしろくあそぶためには、ぼくたちは、いろいろと用意をしておかなくてはならない仕事があったからだ。
 そこでいよいよ夏休みの初日が来て、ぼくたち二人は、飛行艇にのりこんで出発した。ははははは、すばらしい冒険旅行の門出である。
 飛行艇は、すばらしいね。「すばらしいね」というのは、ぼくやサムの口ぐせだと非難する友人もあるが、しかしほんとうにすばらしいことばっかりにぶつかるんだから、すばらしいといいあらわすしかないんだ。飛行艇が離水する前に、はげしいいきおいで水上|滑走《かっそう》をする。そのとき浪《なみ》がおこって、窓にぶつかる。窓は浪で白く洗われ、外が見えなくなる。そして艇は、もうれつにエンジンをかけているから、ものすごい音をたてて走っている。今にも艇が破裂しそうだ。と、とつぜん、そのすごい音がやんで、しずかになる。すると窓のくもりが取れて、外の景色が見えだす。そのときは飛行艇が離水したのだ。
 ぼくは、飛行艇が水上滑走をはじめ、それから離水するまでが、大好きだ。ことに離水した瞬間のあの快《こころよ》い感じは、とてもいいあらわすことができない。ほい、しまった。ぼくは熱帯の冒険の話をするのに、飛行艇のことばかり語っていた。話を本筋へもどす。
 その飛行艇は、たった二日で、ぼくたちを、注文どうりの熱帯多島海へはこんでくれた。そして、ぼくたちは、ギネタという小さい町へ入ったのだ。
 ギネタは、人口八千人ばかりの、小都会であった。しかし、これでも多島海第一の都会であった。以前は、このギネタに、多島海|総督府《そうとくふ》があり、総督がいたそうな
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