が、そこには思いもよらず――
「アレーッ」
という若い女の悲鳴があった。
「おお、貴女《あなた》は……」
一郎はあまりの意外に、棒のように突立ったまま、言葉も頓《とみ》には出なかった。意外とも意外、その芝草の上に立っていたのは誰あろう、いま都下第一の人気もの、竜宮劇場のプリ・マドンナ、赤星ジュリアその人だったからである。
裂《さ》かれた日記帳
「あら、驚いた。……まア、どうなすったの、そんなところから現われて……」
ジュリアは唇の間から、美しい歯並を見せて叫んだ。
しかし彼女は、それほど驚いているという風にも見えなかった。それが舞台度胸というのであろうか。高いところから得意の独唱をするときのように、黒いガウンに包まれたしなやかな腕を折り曲げ、その下に長く裾を引いている真赤な夜会着のふっくらした腰のあたりに挙げ、そしてまじまじと一郎の顔を眺めいった。
「僕よりも、赤星ジュリアさんが、どうしてこんなところに現われたんです」
と、一郎は屍体に何か変ったことでもありはしないかと点検しながら訊《たず》ねた。
「あら、あたくしを御存知なのネ。まあ、どうしましょう」とジュリア
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