たものの、だんだんに防弾鋼の当っていない肘《ひじ》を掠《かす》めたり手首に流れ当ったりして、さすがの警官隊もすこしひるみ始めた。卓子《テーブル》の陰から、眼ばかり出してこの猛烈な暗黒中の射撃戦を凝視していた雁金検事や大江山捜査課長などの首脳部一行は、早くも味方の旗色の悪いのを見てとった。
「大江山君、この儘《まま》じゃあ危いぞ。警官隊に突撃しろと号令してはどうだ」
「突撃したいところですが、駄目です。卓子だの椅子だの人間だのが転がっていて、邪魔をしているから突撃できません」
「でもこのままでは……」と検事は悲痛な言葉をのんだ。
と、そのときだった。誰か、検事の腕をひっぱる者があった。
「雁金さん、雁金さん――」
「おう、誰だッ」
「落付いて下さいよ、僕です。分りませんか」
「ナニ……そういう声は」
と雁金検事は相手の男の腕をグイと握ってひきよせて、低声《こごえ》で囁《ささや》いた。
「――青竜王だナ」
青竜王! それはかねて雁金検事の親友として名の高い覆面探偵青竜王だったのである。どうしたわけか、このところ十日ほど、所在の不明だった探偵王だった。彼のところへやった通信が届いて、このキャバレーへやってきたものらしい。
青竜王は闇の中で雁金検事と何事かを低声《こごえ》で囁きあった。その揚句《あげく》、話がすんだと見えて、
「じゃ、しっかり頼むぞ」
という検事の激励の言葉とともに、青竜王はコソコソとまた闇の中に紛れこんでしまった。――検事はこんどは大江山課長を引きよせると、何かを耳打ちした。
「よろしい。命令しましょう」
課長はそういって、卓子《テーブル》の陰から匍《は》いだした。彼は銃丸《たま》の中をくぐりぬけながら、力戦している警官隊の方へ進んでいった。
間もなく何か号令が発せられて、武装警官隊の射撃は更に猛烈になった。天井から何かガラガラと墜《お》ちてくる物凄い音がした。
「前面《まえ》を注視していろ!」
隊長が叫んでいる――
と、正面に怪物のように火を吐いていた痣蟹の軽機関銃が、どうしたものか急に目標を変えた。ダダダダダッと銃丸《たま》は天井に向けられ、シャンデリアに当って、硝子《ガラス》の砕片がバラバラと墜ちてきた。
「おや?」と思う間もなく、ワッという悲鳴が聞えて、いままで呻《うな》りつづけていた機関銃の音がハタと停った。そしてドサリという重
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