慄然として恐怖に襲はれた。もつと遊んでゐたいと子供が泣きだすのも構はず、夢中で梯子段の方へ退却していつた。それ以來、子供を連れてゐるときは、屋上へのぼらないことにしてゐる。
 夢の中に見る恐怖のうち、特に恐ろしい光景が二つある。一つは、空をみてゐると、太陽が急に二つに殖え、アレヨ/\と見てゐる間に三つにも四つにも殖えてゆくのをみるときだ。そんなときの太陽は、いつも光を失つて、まるで朱盆のやうな色をしてゐる。野も山も、いつの間にか丸坊主になり、プス/\と冷い水蒸氣が立ちのぼつてくる。世界の終りだ! 私はビツシヨリ寢汗をかいて、目が醒める。
 もう一つは、フロイド先生の御厄介ものだが、洪水の夢をみるときだ。雨は暗い空からジヤン/\[#「ジヤン/\」は底本では「シヤン/\」]降つてゐる。水だ/\といふ聲がするので、外に出てみる。なるほど水嵩が増してゐる。水面は手のとどきさうな近くにまで上つてゐる。川幅はもう海のやうに廣くなつてゐる。碧い水は轟々と渦を卷いて、下へ流れてゆく。上手をみてみれば[#「みてみれば」は底本では「みてあれば」]、川面が上へ傾いてゐるではないか。これでは水の減る見込は全然
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