く》に腫《は》れあがった相貌《そうぼう》は、あさましいというよりは、悪鬼のように物凄いものだった。さすがの儂も眼を蔽《おお》った。やがて気がついてみると、二機は互に相手の胴中を噛合《かみあ》ったような形になり、引裂かれた黄色い機翼を搦《から》ませあい、白煙をあげ海面目懸けて墜落してゆくのが見えた。それが遂に最後だった。戯《たわむ》れに恋はすまじ、戯れでなくとも恋はすまじ、そんなことを痛感したのだった。儂は、あの日のことを思い出すと、今でも心臓が怪しい鼓動《こどう》をたてはじめるのじゃよ」
 そう云って川波大尉は、額の上に水珠《みずだま》のように浮き出でた油汗を、ソッと拭《ぬぐ》ったのだった。丁度《ちょうど》その時、時計は午後十時のところに針が重《かさな》ったので、三人はその儘《まま》、黙々《もくもく》と立って、測定装置の前に、並んだのだった。

     3



   第二話 星宮理学士の話


「さて僕には、川波大尉殿のような、猟奇譚《りょうきたん》の持ち合わせが一向にないのだ。といって引下るのも甚だ相済まんと思うので、僕自身に相応した恋愛戦術でも公開することにしよう。
 さっき、大尉どのは、『戯れに恋はすまじ、戯れならずとも恋はすまじ』と、禅坊主《ぜんぼうず》か修道院《しゅうどういん》生徒のような聖句《せいく》を吐かれたが、僕は、どうかと思うね。それなら、ちょいと伺《うかが》ってみたい一条がある、とでもねじ込みたい。大尉どのの、あの麗《うるわ》しい奥様のことなんだ。あんな見事な麗人《れいじん》をお持ちでいて、『恋はすまじ』は、すさまじいと思うネ。僕は詳《くわ》しいことは一向知らないけれど、余程のロマンスでもないかぎり、大尉どのに、あの麗人《れいじん》がかしずく筈がないと思うんだ、いや、大尉どのは憤慨《ふんがい》せられるかも知れないけれどね――。で僕に忌憚《きたん》なく云わせると、大尉どのの結論は、本心の暴露《ばくろ》ではなく、何かこう[#「こう」に傍点]為めにせんとするところの仮面結論《かめんけつろん》だと思うのだ。大尉どのの真意《しんい》は何処にある? こいつは面白い問題だ――と、イヤにむきになって喰ってかかるような口を利くのも、実はこうしないと、これからの僕の下手な話が、睡魔《すいま》を誘《さそ》うことになりはしないかと、心配になるのでね。
 そこで、僕に
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