やくかいてんだん》が条件にぴったり合っている」
「えっ、共軛回転弾。ああ、なんというすばらしい名称でしょう。大統領はどんなにおよろこびになることでしょうか」
「ええと、あれは第五十四号だったな」
と、博士は大金庫の中から設計書類の一つを引張りだした。袋の口から中を覗いていたが、するりと抜きだした折畳んだ大きな紙。それを机の上に拡げる。
「あら、白紙《しらかみ》だわ」
ルスが愕いた。
博士は無頓着《むとんちゃく》に、その大きな紙の四隅をピンでとめた。それから机の下をさぐっていたが押し釦《ボタン》の一つをぷつんと押した。すると紙がぱっと蛍光色《けいこうしょく》を呈して光りだした。空白《くうはく》の紙上にはありありと図面が浮び上る。
「共軛回転弾というのは、こういう具合《ぐあい》に、二つの硬《かた》い球が、丁度《ちょうど》鎖《くさり》の環《わ》のように互いに九十度に結合して、猛烈な高速で回転するのだ。そして互いに相手を励磁《れいじ》して回転を促進し、永久に停まらない。この硬い球は、原子核の頗《すこぶ》る大きいものだと思えばよろしい、わしが五年かかって特製したものだ。硬いこと重いことに於て正に世界一。そしてこれを共軛回転させてスピード・アップすると、その速力は音波の速力の約三十倍となる。そこへ持って来て、これは一名『鉄の呪い』という名があるくらいで、鉄材を追駆けて走りまわるのじゃ。じゃによって、いかなる戦車群、いかなる大艦群《だいかんぐん》、いかなる武装軍も、たちまちこの回転弾のために粉砕されてしまうというわけだ。この共軛回転弾によって破壊し得ないものは、この地上に一つもない。どうじゃ、聞いているのか」
「ええ、聞いていますとも、まあなんというすばらしい新兵器でしょう」
「ああ、一千億ドルの値打があるよ。現物《げんぶつ》はこっちにある。来てみなさい」
金博士は悠揚迫《ゆうようせま》らず、更に奥の部屋に案内する。そこは倉庫のようなところだった。博士の立停って指すところに、一つの木箱《きばこ》があった。箱の大きさは二|米《メートル》立方。
「これじゃ。この中に入っとる」
「まあ、危くありませんの」
「いや、まだ起動《きどう》して居らぬから危くない。この棒を抜くと、まず一部分に静かなる化学変化が起り始める。その化学変化がだんだん発達して、小さな歯車が動きだす。電気が起る。
前へ
次へ
全13ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング