って僕の手を強く握った。
 後になって、あのときどうしてその爆発が起ると分ったんだと帆村に訊いたところ、彼は涼しい顔をして、
『まさか君は、時局柄君自身が狙われていることを知らないわけではなかろう。ああいう変な音響を耳にしたときは、すぐさてはと感じなければいけないんだ。これからもあることだ。変なことがあったら、すぐさてはと考えて、そして思いあたるところがあれば、すぐさま逃げだすようにしないと、君の生命は危いぜ』
『うん、それは分った。だがあの爆発は、どんな仕掛だったのかね。キップの装置がどうしたんだ』
『キップの装置といえば、水素瓦斯の発生器じゃないか。それが屋根裏で、ぶつぶつと水素瓦斯を出しているんだ。そこへ火をつければ、大爆発が起ることは、誰にも分る。ことに水素瓦斯に空気が混っているときは、その爆発は更に激烈なものとなる。――だから、君を狙う敵は、電流仕掛で水素瓦斯に点火して大爆発をさせたんだ。僕は焼跡に駈けつけて、水素瓦斯に点火するため二本の電線が屋外に引張られていたのを発見したから、これに間違いはない』

     毒瓦斯

『ホスゲン瓦斯の中毒で殺られたんだとさ』
 と、帆村は惨事のあった部屋から顔を出した。
 中には七つの屍体が転がっていた。鑑識課員に交って憲兵の姿も見える。
 日本飛行科学研究所の第四研究室員七名が、研究中に揃いも揃って、冷たい屍体となり終ったのであった。この愕《おどろ》くべき悲報に、僕は帆村探偵について、現場を覗きに来たというわけだった。
『一体どうしてホスゲン瓦斯などにやられたんだね』
『それが分らん。なにしろ七名とも、皆死んでいるのだから』
 そういっているところへ、部屋の中が俄《にわ》かに騒がしくなって、入口が大きく開かれた。中からは、数名の刑事や警官が、一つの屍体を担《かつ》ぎだした。
 僕はそれを見ると、横にとびのいた。
 担がれている屍体が、ぎゅーっと顔をしかめた。
『あれえ、生きているじゃないか』
 と、僕は思わず叫んだ。
『しっ、静かに。一人、息をふきかえしたのだ』
 と警官が叱った。でもその顔は喜びに輝いていた。
『――この男が口をきくようになれば、事件がどうして起ったんだか、分るぞ』
 と、最後に部屋から出てきた警部が、部下にそっと囁いた。
 帆村と僕とは、その生きかえった男の後について、急造の病室について入った。
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