足で、その梯子のある階段のうしろへ廻った。がそのとき階段のうしろで、意外なことを発見してしまった。というのは、廊下へ通ずる戸口《とぐち》の蔭に、ミチ子と、それから何ということだろう、友江田先生とが、ピッタリ寄《よ》り添《そ》って深刻な面持《おももち》で密談をしていたではないか。
「これは、古屋君」
「先生、えらい事件が起りましたね」
「いまも京町さんと話をして居たことです。ソフトカラーをしているお互いは、ネクタイで締められないように用心《ようじん》が肝要《かんよう》だとナ。ハッハッハッ」先生は洞《うつろ》のような声を出して笑った。ミチ子は僕達のところから飛びのくと、タッタッタッと階段を二階へ登って行ったので僕の計画は見事に破壊せられてしまった。だが先生はミチ子と何の話をしていたのだろう。
4
こう嫌疑者《けんぎしゃ》ばかりが多くては困ってしまう。僕は誰と相談してよいのか、誰を犯人の中からエリミネートしてよいのか判断に迷った。
僕は徹夜して犯人の研究をしたのであるが結局、疑いはどこまでも疑いとして残った。この上はどうしても積極的行動によって犯人を見出さなければならない。その時に不図《ふと》頭の中に浮び出《い》でたことは、あの図書室の三階には、初めて僕がのぼって行ったときに直感した通り、何か重大な秘密が隠されているのであるまいか。僕は何の気もなく三階にいつも上《のぼ》っていたのであるが、あそこは犯人と少くとも死んだ所長とが覘《ねら》っていたのに相違ない。犯人はそれを明《あか》らさまに他人に悟《さと》られることを恐れ、殊更《ことさら》図書室の二階か一階かとなりの事務室かに蟠居《ばんきょ》して、その秘密を取り出すことを覘《ねら》っているのではなかろうか。そうだとすると、人知れず三階に登る人間を、ふンづかまえる必要がある。そこで僕は一つカラクリを考えついた。それは三階へのぼる階段の一つへ、階段と同じような色の表紙を持ったスコットランド・ヤードの報告書を載《の》せて置こうというのである。若し三階へ昇った人間があればなにか足跡がのこるであろう。たとえそれは泥がついていなくとも、リノリュームの脂《あぶら》かなんかがきっと表面に付着するだろう。それを反射光線を使い顕微鏡で拡大すれば吃度《きっと》足跡が出るに違いない。僕は科学者らしいこの方法に得意であった。
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