隻やったらしい(朝子の手紙によると)。
その後、朝子の手紙が来て、四月五日これから出撃する主人を送っているとあり、気を揉んでいる様子が見えるようだ。きょう手紙にて激励をして置いた。
◯都電運転系統は現在左の通り動いている。
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△品川→日本橋 △三田→日比谷 △目黒→日比谷 △五反田→金杉橋 △渋谷→金杉橋 △渋谷→青山一丁目 △渋谷→六本木 △中目黒→金杉橋 △四谷三丁目→泉岳寺 △四谷三丁目→浜松町 △新宿→荻窪
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◯列車乗車制限(軍公務、緊急要務者以外は乗車券を発売せず)
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◯東海道線=東京→小田原 ◯中央線=東京→大月 ◯東北線=東京→小山 ◯高崎線=大宮→熊谷 ◯常磐線=日暮里→土浦
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四月二十七日
◯この日記をしばらく休んだ。休んだわけは忙しさのためと、空襲の閑散化のため。といっても、帝都空襲が閑散化したわけであって、B29の日本空襲が減ったわけではない。むしろこのごろは毎日、九州の飛行場を爆撃に来るという執拗《しつっこ》さ、熱心さである。わが特攻隊の出鼻を挫《くじ》かんためであることはいう迄もない。
◯さて、休んでいた間にも、帝都への大爆撃はあった。それは去る四月十五日深更より十六日暁へかけての夜間爆撃で、蒲田、荏原、品川、大森をやられ、大小の工場がほとんど全滅したとのことだ。なおこのとき川崎もかなりの被害があった。
◯蒲田の工場は当然疎開したものと思っていたが、欲ばっていて親工場へ吸収される値段の吊上げを試みつつあり、そしてやられて元も子もなくしたものが軒並だ。個人工場の損失ではない、国家の大損失であり、猫の手さえ借りたい刻下の沖縄大決戦の折柄、戦力をそぐこと甚しい。
◯吉田晴児の工場も焼けたらしい。協電舎もそうらしい。橋本さんの広辺電気もそれ。枚挙にいとまあらずである。
◯去る四月二十五日の新聞に、被害の総合結果の発表あり。
東 京 五十万戸 二百十万人
大 阪 十三万戸 五十一万人
名古屋 六万戸 二十七万人
神 戸 七万戸 二十六万人
これ下村新情報局総裁の手腕のあらわれと見える。
此の発表で、帝都に関しては「三月十日は不幸にして風が余りに強かったため、同日だけでも焼失戸数や火災による死傷者数は相当にのぼった」こと「大部分焼失した区域は、浅草、本所、深川、城東、向島、蒲田」であり、「その他相当焼けた区は下谷、本郷、日本橋、神田、荒川、豊島、板橋、王子、四谷、大森、荏原、品川」である。
「川崎市は市街の大部分を焼失」
「大阪では西成区、西区、南区、北区、天王寺区、湊区、浪花区、大正区が被害が大きい」
名古屋では「千種区、東区、中区、熱田区、昭和区、中村区、中川区が被害大きい」
神戸では「兵庫区、湊区、湊東区の大部分を焼失した。また葺合、神戸、須磨、林田、灘の一部分焼失」
◯四月十五日、十六日の夜間空襲のときはちょうど神戸の益三兄さんが泊っていて、これを見物した。その前の豊島区などの焼けたときほど大きくは見えなかったが、初め品川上空に照明弾を落としてそれからずんずん東へ南へひろがり、駒沢のが一番近く、そこへ落ちる頃はこれはいよいよ来るかなと思わせた。
◯大橋のバス通りのすぐ左側に於いて千軒ばかり焼けた。
◯大橋の、こっちから行くと左側の堤防に不発弾がおち、電車は大橋→渋谷間が五、六日止まり、その間歩かせられた。
最後に工兵隊が出て、爆発させたが、そのときの工兵隊はがけ下を覗くためにこんなものを用いて居た。
[#カット「手書きの図」入る。44−上段]
◯天皇陛下御|宸念《しんねん》。忝《かたじけな》くも金一千万円也を戦災者へ下賜せらる。
◯賀陽宮、山階宮、東久邇宮の三宮家も御全焼。
◯明治神宮本殿、拝殿も焼失。千百数十発の焼夷弾のかす[#「かす」に傍点]が発見されたという。
◯大下宇陀児《おおしたうだる》[#推理小説家]邸も焼けたと角田(喜久雄)[#小説家]君より聞き、見舞に行った。涙をのむのに骨を折りながら、奥さんと二時間あまり話した。彼は大元気で、家にも帰らず、町の皆さんといっしょに焼あとに起居しつつ、復興につとめている由。防空壕へ衣類を入れてあったためこれが助かったが、他のものはほとんど一物もとり出さなかったという。
当夜、このあたりに旋風が起こり、町の人々を一層恐怖させたとの話。大下邸のすぐそばの焼けた大ケヤキの高い梢の上に、バケツやトタン板がちょこんとのっているのも、それを物語る跡である。
また池袋の武蔵野線のホームのトタン屋根が、変な具合にめくれていて、車中より私は首をひねったが、これも旋風のためとわかった。
大下君は、残留せる四百名の人々をはげまし「新雑司ケ谷
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