ことをくりかえしたらしい。つまり火にとりまかれて折重なって窒息死するとか、橋の上で荷物を守っていると両端から焼けて来て川の中へとび込んだとか、橋が焼けおち川へはまったとか、火に追われて海へ入り、水死又は凍死したとか、川へ入ったが岸に火が近づいたので対岸へ泳いで行くと、そこも火となり水死したとかいう話が下町の方にたくさんあり、黒焦死体が道傍に転り、防空壕内で死んで埋っているのも少くないとの事である。
◯この前の雪の日の盲爆(二・二五)に八万の罹災者を生じたが、今度はその数倍らしい。
◯今日は三日月だが、罹災者の姿痛々しく、街頭や電車内に見受ける。軍公務通勤者以外は切符を売らない。
◯三月十日に焼けた区域は随分広いらしい。
わかっているものだけでも、九段上、番町界隈、銀座一丁目より築地ヘ。新橋駅より新橋演舞場の方へかけて、白金台町附近、高樹町、霞町、浅草観音さま本堂、本郷三丁目より切通坂へかけて、秋葉原界隈、田園調布界隈、司法省、茅場町、日本橋白木屋、高島屋の地下町の方面は次々と焼けたらしい。
◯読売新聞の記事に、罹災区と引受区との表が出ているが、これにより罹災区が十区ある。しかし、この中には麹町区は焼けながら入って居らぬことからみて、もっと多数の区がやられていることは明白だ。
[#ここから1字下げ、横組みで]
(罹災区) (収容区)
日本橋 赤 坂
荒 川 大 森
下 谷 世田谷
京 橋 目 黒
深 川 四 谷
本 郷 中 野
浅 草 杉 並
向 島 板 橋
本 所 王 子
城 東 荏 原
―――――――――――
以上二十区
麹、麻、小、牛、芝、神、
豊、渋、足、葛、品、蒲、
渋、江、淀
[#ここで横組み終わり]
◯若林国民学校へも罹災者一千名を収容、新校舎に入る。暢彦も十三日までで、あとやすみ。晴[#晴彦]は当分登校。
◯偕成社も焼け落ちた。出版企画中の「成層圏戦隊」もこれにて無期延期。
◯吉祥寺駅にて山東先生にお目にかかる。
[#カット「先生の恰好」入る。35−下段]
◯報道班員の身分証明書で切符を買って通る。「報道班員」は近来誰でも知っていてくれるので、早分かりがするようだ。
◯見舞状を出す。今村、朝、摂津、久生、荒木。
◯味噌の配給がとまった。罹災者へまわしたためとある。この隣組の清水、友野両家
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