アメリカは八分の損害を出している。今次の戦域は前のそれに比べて東西両域にわたり、激闘の程度も比較にならぬ程ひどい。故に前記の数字は出鱈目《でたらめ》で、多分百二十万か百三十万はいかれているのだろう。来れ来れ。いくらでもやっつけてやるぞ。そうすれば、こっちが紐育《ニューヨーク》へ進軍するときは非常に楽になる。


 二月五日
◯空襲ハ昨四日、九十機ヲ以テ神戸ニ、十五機ヲ以テ三重県ニ行ナイシト。埠頭ヲ狙イ、南西部市街等ニ火災起リシ由ナリ。


 二月十日
◯本日は朝から敵機がちょろちょろ入って来ると思ったら、二時頃から九十機来襲、ただし帝都をぬけて関東北部へ行って投弾した。
「我方地上施設ニ若干ノ損害アリ」との大本営発表である。たぶん太田、小泉等の中島飛行機製作所がやられたのであろう。
 あそこがやられるであろうことは、前々から分っていた。また数日前も敵機がきょうと同じコースで二度も入って来ている。熊谷の陸軍特攻隊も手ぐすねひいていた筈。むざむざやられるようなことはあるまいと思うが、「若干ノ損害」とは気になる。
 また一方に於いて疎開もやっていたはずだから、うまく行けば案外建物をこわしたに止まるやも知れず、いくら神経ののろくさい軍官民の指導者たちも、今度はちゃんとやっておいてくれたろうと思うが、さあ信用はまだまだ致しかねるをいかにせんや。
◯戦果発表「十五機撃墜す」――十一日午後三時。


 二月十一日
◯荻窪や京浜街道附近の友人たちが移転を希望し、世田谷に望みを持って、家を探してくれと頼んで来るのが多い。まことに尤《もっとも》もなことである。しかし世田谷はなかなか家が手に入らない。誰しも安全地帯と思っているせいであろう。
 が、昨日今日、二軒ばかり明きそう。一軒はもう敷金と家賃を払込んで置いた。二十五円という安い家だ。しかし「早く見に来なさい」と知らせて置いた友人はいっこう来らず、今度は入り手ありやと心配する立場となっている。

 二月十二日
◯慶応病院へ行く途中、省線[#JRとなった国電の旧称]千駄ケ谷駅へ電車がついたとき警報が出る。一機来たらしい。この敵機、わが制空機部隊によって撃墜され、銚子の向こうの海へ落ちたと発表あり、みんなうれしがる。一機来て、こうはっきり墜としたのは、これが最初である。
 午後七時頃、敵一機来襲。西からきて帝都を東にぬけ、関東を旋廻して東
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