ソウイエバ昨年ノ暮空襲デクライ外ヘ出タトキ、左ノ眼ガイヤニ暗イ感ジガシタシ、マタ室ニイテモ変デ、左ノマツ毛に目ヤニデモツイテイルノデハナイカト気ニシタ事ガアッタガ、ソノコロカラ悪カッタラシイ。厄介ナコトデアル。併シ目ハワルクトモ戦ウゾ。
◯敵機は、昨日はとうとう来なかった。一昨日もその前も、午後九時頃に来て、次は暁の五時過ぎに来た。前のように午前一、二時頃にこなくなった。これでこの頃、だいぶ身体が楽をしている。

 一月九日
◯「読売報知」へ投稿の「軍情報と数字」がきょう掲載された。
◯敵機は昨夜も来なかった。どうしたのだろうか。こっちはよく寝られてよかったが、敵の様子が気にかかる。
◯午後一時四十分、警戒警報発令。久し振りに昼間の空襲となる。
 四編隊のほかに一又は二機の別動隊がある。そのうちに後続の数機は中部軍管区へ入る。情報が出て間もなくプーと鳴って、空襲警報解除となる。「あれ、もう解除か。あっさりした空襲だな」と壕を出る。ようやくこんな気持のところまで来た。空襲始まりのあの頃とはたいした変りようだ。
◯東北東の空中に、敵機群から白いものが落ちはじめた。敵機の燃料タンクか、味方の戦闘機かとひやひやする。わからず、そのうちに見ている双眼鏡の中に一機もえて真紅になっておちるのがある。前見た戦闘機かとひやっとしたが、かなり形が大きいので、敵機とも見えた。どうぞ敵機であるようにと祈る。
◯後刻、陽子[#次女]が学校(山脇高女)より帰って来て、真赤になって敵機が落ちた事、それが途中で空中分解してばらばらになった事を話す。私が「本当にあれは敵機か」と真剣に訊けば、陽子「だってずいぶん大きい飛行機だったんですもの」「そうか、よし、よし」と、私は大機嫌であった。
◯眼疾あるために、空を見れば一面に水玉があらわれ、また視力も落ちていて(おまけにややミストあり)今日ははっきり味方機の活動を見る事が出来なくて残念だった。
◯昌彦[#三男、病臥中]に初めて敵機(二機)を見せる。よろこんでおった。
◯この日敵機が関東北部へ向かったというので、さては小泉、太田の中島飛行機工場へ行ったかと舌打ちしたが、そのうちに敵機隊は南下を開始した。爆弾は関東北部で落として来たのか、それとも帝都へ落としたのか、詳《つまびら》かならず。
◯防空に立つと小便がちかい。冷えてぼうこうカタルを起こしつつあ
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