縁側が下におち、老人の身体をその間にはさんだので助かったという。
ラジオ受信機は、断線個所が多かった。やわらかい土地だから、地震のように震動がつよかったためだろう。
附近では爆弾破裂の音を聞いた人が殆んどなく、しゅるしゅるという音だけは聞いたそうな。近いところでは案外音がしないという話があるが、それに適中する。
近所の人もわりあい落着いている由。この際引越しても輸送がうまく行かないこと、敵弾に当たれば運が悪いとあきらめようという気持、自分のところは大丈夫だという気持などがプラスに動いているらしい。
附近に四発落ちた。荻窪の中島工場(まだほとんど無傷)を狙ったそれ弾か、荻窪駅を狙ったのか、それとも桃井第二国民学校を狙ったのか、それが分らないとのこと。
とにかく伊東君一家の安泰を祈るや切なるものがある。
◯練馬では、一度掘れた爆弾孔を埋めたのに、後ほど又同じところに落弾し穴を明けた。もう埋める気がしなくなったそうな。
一月四日
◯一日、二日、三日の夜は空襲なく、おかげでゆっくり眠れた。しかし三日は名古屋方面に九十数機の来襲あり、また四日は台湾、沖縄へ艦載機延べ五百機来襲。
◯サイパンを爆砕したというのに、敵機はその直後にとび立って、九十数機で堂々とやって来るのだ。台湾や琉球へも敵の機動部隊が近づき空襲をかける。こっちの機なきをすっかり知って、なめている態度がよく分る。しかし事実ゆえ仕方がない。忍耐精励、時を待つしかない。
気にしまいとすれどもきょうの吹雪かな
◯「富士」編輯局《へんしゅうきょく》の木村健一氏が来宅。去る十二月十二日夜、雑司ケ谷墓地附近へ敵機が投弾して火災が生じたが、そのとき木村氏は用があって附近を通行中だった。身は焼夷弾の海の中におかれたため、大奮闘し、焼夷弾の処置や、火災を起こしかけた墓茶屋の消火に従事し、それより急を防護本部に知らせるなど大活躍した。仲々の殊勲であり、又貴重なる体験である。彼の談話の中から重要な点をあげてみると――
◯焼夷弾(油脂)はたしかに座金の方を手袋のままつかむことが出来る。
◯いやによく火は燃え、手袋についたり衣服についたりするが、ワセリンみたいな油が燃えているだけで熱くはない。もみ消せば消える。水では駄目。
◯靴で踏み消せば靴がだめになる。火叩きは有効。
◯落ちた瞬間、あたりは火の海となる。そのとき呆然
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