て空をうちながめたり。さすがに大きなる飛行機なる哉。皆々鉄格子につかまり、午飯を忘れて見上げたり。
◯颱風去りたるも、驟雨しきりなり。たちまち庭も路も川となる。

 八月四日(日)
◯順調なり。
◯加藤戒三氏、見舞に来てくれる。牛の血から製したブルテイン第一号壱缶を寄贈される。血の損失に痛い私にはありがたい贈物なり。
◯蒼鷺幽鬼雄[#海野の別ペンネーム]の第二作「血染の昇降機」を書き始める。

 八月五日
◯漸く暑気回復せんとす。われ順調なり。
◯昨夜の夢、椎茸飯、長野先生の授業にサボして口実に困り居る所を。
◯来客
 松竹事業部宝田氏
  シナ戦線五ヶ年の話。右耳朶、心臓横にうけた弾丸及迫撃砲破片の話などを。
  「東京怪賊伝」の原稿を渡す。
 西日本新聞社の氏家氏
  サイエンスのパズル入稿の催促。
 明治書院
  「おはなし電気学」の補遺原稿の催促。
 偕成社の矢沢氏
[#ここから2字下げ、ただし底本には組み体裁上の誤りがあり]
「まだらの紐」の内金を持参あり。偕成社の近情を聴く。社長の所業に対して好意的なる苦言を呈せん事を思い、あとに池田氏へ手紙にて拝談す。
[#ここで字下げ終わり]
 夜に入りて出版の用にて竹田清治君来。折から停電。未筆稿の印税前渡し持参の連らく。
◯昌彦少し具合わるし、昨日よりなり。

 八月六日
◯広島へ原子爆弾投下の一周年なり。昨年を思い、この一年間を偲び感慨尽きず。
◯昌彦、心臓を苦しがる、村上先生の急来診を乞いて注射にておさまりけり、少々熱あり。
◯昨夜の月。マンマル。
◯原稿執筆仲々進まず、漸く数枚也。
◯「地獄一丁目」などかいて夜に入りて子供をおどかしてよろこぶ。

 八月八日(金)
◯昨日薬をもらいそこねて、今朝は薬抜きなり。
◯写真機屋さん来る。小型映画のセメントとフィルム二本とオシスコップ届けてくれる(九十五円)。岡東君より預かり中の映写機をテストす。モーターの廻転せざりしもの、油を入れてやっと回復する。
◯「小国」の原稿、蒼鷺もの第二回の「血染の昇降機」を書き了える。三十枚で、さっぱりまとまらず。書き直したが香しからず後味わるし。
◯朝、自由出版より電話あり、来る十五日の会合につき問合はありたるも断わる。
◯松竹事業部野口氏よりの招宴と観劇もまた断る。病気ゆえなり。
◯帆苅氏来宅、「報知新聞」が来る八月十三日より夕刊新
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